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心の風景

Vol.35 労働力

(このブログはNANBANプレス49号に掲載されたコラムを再編集したものです。)

昨年から今年にかけて、アジアに出張する機会が増えてきました。韓国、台湾、シンガポール、インドネシアなどです。アジアの国々を回ってみて感じることは、日本の菓子の水準の高さです。アジアの国々は日本の菓子のクオリティーを目指していることは確かです。各国の傾向としては、超大手が店舗展開をしていることが多いことに気づきます。これに対して、日本は個人店がそれぞれの専門店カラーを出して、日本の菓子文化を下支えしていると改めて感じました。

専門店の限界は
最近、お客様を見ながら感じることは、1店舗の専門店の限界の売上げは1.5億~2億前後ではないかと感じています。勿論、それ以上やっているお店はありますが、本当に全国を見回しても、限られています。
1店舗で1.5億以上売れているお店の集客と勢い、それは凄いです。毎日50万円以上売れるわけですから、厨房も販売も自転車で言いますと全力でペダルを回している状態と言えます。
又、菓子は嗜好品という観点から、土日、祝日に集中します。この為、鮮度を追及する為に製造はどうしても、長時間労働になってしまいます。この状況は今も昔も変わらないと言えます。専門店のオーナーの方々が売り上げの限界を感じられるのは、売り上げの維持や、上昇させる為に必要な作り手の絶対数の不足だと思います。

働く側の変化
洋菓子が創世記の頃は、働く人は「修行」という思いで働いていました。将来故郷に帰り自分の店を持つ、この心意気で働く訳ですから、どんな苦労も自分の肥やしになると思って一生懸命働きます。皆様方もそういう思いで修行してこられたと思います。しかし、今の菓子を取り巻く環境は、創世記から成熟期に入ってきたと言えます。簡単に独立もできにくいし、又独立したからと言って、成功の可能性は狭き門になったと言えます。そこで専門店にとって、独立を目的としない働く人をどう使うか、これはとても大切なテーマだと思います。

冷凍生地製造で学んだこと
弊社では、ご存じのように皆様に御使用頂いております、冷凍生地を作る工場を持っております。最初の頃は、現在冷凍生地の工場長をやっております中村が手絞りで、シュー生地を作り、冷凍庫で凍らせるから始まりました。しかし製造が間に合わなくなり、非常に早い段階でデポジッターや冷凍のトンネルの導入を行いました。初期投資はかかりましたが、あの時の決断は間違っていなかったと思います。何故なら、現在ここでの働く方の主力は、会社の近くに住まれている主婦のパートスタッフだということです。もし導入が遅れていたら、製品を作る為に働く人達を集めることで、どれだけ心血を費やし、苦労したかと思います。パートの女性は真面目に一生懸命働かれる方ばかりで、武器を持たせることにより凄い戦力になりました。何故なら専門店にとって、安定した生産性の維持は、必要不可欠だからです。従業員が辞めたり、作り手が減少したりする人の問題ほど、経営者に最も心労を与えるものだと、身をもって体験したからです。私自身この経験がきっかけで、今後の専門店にとって必要と思われるリムジンやバッケン・スーパーデポ、冷凍生地などの更なる開発に繋がっていきました。

厨房の中の二極化の必要性
専門店に対するお客様の要望は、益々鮮度の追及を求めています。今後は、なお一層の五感ゾーンの構築と手作り感が必要ですし、もう一つ工夫した生の細工も大切な事です。製品づくりを全て「やる」という考え方から、パートさんに武器を持たせて、しっかり厨房の中で戦って頂く場面づくりも必要ではないでしょうか。
弊社の冷凍生地工場で人材を募集するときに、製菓技術者とか、お菓子を作るという内容は、あまり記入せず食品工場製造員募集とします。このご時世ですから沢山の人が集まります。その中には非常に優秀な方も多く、こういう人材は全国色々なところにいるのではないかと思います。
厨房の中に於いて技術者が行う仕事と、パートの方が行う仕事の棲み分けを作る事は、特に今の時代大切な事ではないでしょうか。商品づくりが技術者以外での製造ラインでできると、その広がりは計り知れない可能性をもたらしてくれると思います。
若者を育てることに対して、いろいろな難しさを感じることもあると思いますが、こんな話があります。古代エジプトの壁画に「今の若者はなっていない」こんな言葉が、何千年も前に書かれていたそうです。まさに今も古代も変わらず、同じ悩みを持ちながら人を育てることに苦心していたのだと思います。健闘をお祈り致します。