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心の風景

Vol.37 神田の鰻屋

(このブログはNANBANプレス51号に掲載されたコラムを再編集したものです。)

東京の神田に有名な繁盛している行列のできる鰻屋がありました。建屋は小さく道端に向かい、炭火で一心不乱に主人は鰻を焼き続けました。店が小さいため、お客様は店の入り口から並び、長い行列が出来ています。そこに雨が降ってきました。お客様は何気に傘をさし、主人が焼く鰻の匂いと姿を見ながら、「この親父は頑固だよな、でもあの頑固な親父が焼く鰻は絶品だよな、したたり落ちる油、いい鰻を使っているな、早く自分の番がこないかな」こんな気持ちで待っています。しかしここの主人は並んでいるお客様に対して「こんなにお客様を待たせて。一日も早く雨が降っても大丈夫な、客間と店内でも食べられるお店を作りたい」そういう思いで懸命に働き、「お客様の為に」立派なお店を作りました。綺麗で立派な客室、厨房は客室から離れ、お客様の居心地を重視しました。オープンして1年?2年は客数も増えましたが、それからの伸びはなく、逆に減少してきました。そこで、今度は支店を出しましたが逆に本店の職人が分散することにより、本店の持っていた独特の色が薄まり、思ったように売上が伸びなかったと聞きます。鰻屋の御主人は、お客様の為に綺麗で立派なお店にしたのですが、お客様のニーズはそこではなかったと言うことです。

お店の衰退の原因は
菓子店の始まりはマンションの一角からスタートします。狭い厨房とお店、そこで寝食を忘れて一生懸命働き、大きな夢である立派な自分のお店を作られます。ここに夢が実現します。しかし前文で書きましたように、神田の鰻屋のように、思った以上に売上げが伸びないお店も多くあります。立派なお店になってからのお店の磨き込みは、非常に難しいものです。ここで重要な事は、お店が立派になるという事は、客数が増える事と、商品の種類が増える事になります。 お店を大きくされる時にいつも思う事ですが、店舗にはお金はかけられますが、厨房の生産性の強化をなさらないお店が多いことです。お店を大きくすると間違いなく客数は増えますから、菓子屋さんのように土日、祝日に集中してお客様がこられる形態は、お店が大きくなればなるほど生産力を強化しなければ大きなチャンスロスがうまれます。一番怖いのは売れ筋商品の欠品です。そして、小さな店の時には許して頂いた接客のミスも、立派な店になるとお客様の目は厳しくなります。私はこうした積み重ねがお店の衰退の始まりのような気がいたします。

今、何を磨き込むべきか
牛丼の松屋は今期大きな赤字に転落しました。何故か、出店につぐ出店で売り上げを伸ばしてきましたが、人手不足や労働時間の短縮により出店したお店をクローズしたり、24時間営業を中止せざるを得なくなり、大きな売り上げの減少になった為です。飲食業の人手不足は深刻で、その中に入る菓子製造業において、磨き込みとはやはり人手不足に対する備えではないかと考えます。
最近、リムジンの販売で大手様にお伺いすることがありますが、専門店との生産力の違いは歴然としています。私は今後、ある程度の機械化を実行していくことが、専門店にはとても大切の事だと思っておりますし、人手不足の対応こそが、今後の弊社の使命であると確信いたしております。

商売は戦いである
刻々と変わる状況や、毎日起こる雑事に振り回され、精神的に疲れたとき私はこの文章をいつも読みます。日本の代表的な企業、大正製薬を創り上げた、上原正吉氏の言葉です。
「商売は戦いである。この戦いは勝つことのみが善である」
商売の戦いは戦車や大砲によるそれとは違い、進行がきわめて緩慢だ。(動きがゆっくりしている事)
「戦っている」という実感を中々もちにくい。本人たちが気づかないうちに時間だけが経ち、いつの間にか勝者は繁栄を重ねて業界に君臨する。一方、敗者は倒産、廃業に追い込まれ、ここで勝負が歴然とするのである。緩慢だからといって、真剣な戦いに情け容赦は存在しないのだ。
「だから商売の戦い、つまり同業者との競争には、必ず勝たねばならないのである」}
この様な気持ちを忘れず、絶えず自分自身を奮い立たせ、信念を持ち、目的に向かい歩き続けることが、経営者にとって大切な事だと思います。