どこの国のお菓子か
ということより、日本人に喜んでもらえる洋菓子がつくりたかった。

神奈川県川崎市

リリエンベルグ

オーナーシェフ

横溝 春雄

バターカステラ

内山 横溝シェフといえば、やはり、ザッハトルテやポルボローネなどのお菓子が思い浮かびますが、シェフの「一生一品」をご紹介いただくとすれば、どのお菓子でしょうか。

横溝 そうですね、「バターカステラ」ですね。

内山 ウィーン菓子のつくり手である横溝シェフから、「バターカステラ」をご紹介いただくというのは、ちょっと意外なのですが。

横溝 そうですか? 私はまず、日本でフランス菓子を学んでからスイスへ渡りました。そして、スイス菓子を学び、ドイツでドイツ菓子を学び、ウィーンでウィーン菓子を学びました。ヨーロッパにいる時にフランスにも何回か行って、本場のフランス菓子がどういうものかも知りました。
そうして、日本に帰ってきてどんなお菓子をつくるかといった時に、フランス菓子のシェフがフランスから帰って来て、「パリのエスプリをお菓子に入れるぞ。」というような本場志向は全然なくて、どこの国のお菓子というのではなく、“自分の舌を通してできるおいしい味”をつくりたいと思いました。

内山 それはどのようなお菓子だったのでしょうか。

横溝 私は個人的には練りきりや羊羹などの和菓子が大好きで、リリエンベルグをオープンした時も、お菓子にゆであずきや黒豆、てぼいんげん豆をいつでも自分のところで炊いて使いましたし、抹茶もこだわって京都から取り寄せたりしてお菓子をつくりました。“日本人が食べておいしいと思う”というところに、私のお菓子づくりのコンセプトのひとつがあると思ったからです。
ほうじ茶や日本茶を飲みながら食べられる洋菓子があるかと考えたときに、日本には長崎カステラがあります。長崎カステラにバターを入れた本当にスポンジのようなカステラはできないか。クリームをサンドしたり絞ったりするのではなくて、カットしてそれだけを召し上がっていただける、そんなバターの風味の高いカステラができればいいなと思ってつくったのがこの「バターカステラ」です。長崎カステラの生地にバターを入れて、まさにスポンジカステラです。でも、完成までにはずいぶん試作しましたね。

内山 焼成される際にデコ缶で泡切りされていましたね。

横溝 ええ。そうなのです、しっとりした感じにしたいので。泡切りは浮きに関わりますから。全卵とお砂糖と水飴と後は粉を入れて立て、ある程度立てたときに比重を計って、最後に発酵バターを溶かしたものを結構たくさん入れます。
「バターカステラ」は日本茶を飲みながら食べられる洋菓子として、とても面白いお菓子です。

内山 横溝シェフには私どものオーブンをずいぶん長くお使いいただき、ありがとうございます。

横溝 そうですね、お店の開店の時からですから、もう27年ですね。お店が大きくなるにつれて、後から何台か追加でお願いすることになりました。
バッケンはなんといっても気密性に優れています。例えば、焼成中は普通のオーブンだと熱くてそばにはいられないのですが、バッケンは平気です。200℃で焼くものを、200℃に温度設定して入れても、炉内の温度がすぐに落ちるような事はありません。普通だと200℃で焼くオーブンは温度が下がるのを見越して、ある程度強火にしなくてはいけないのですが、その必要がありません。
「バターカステラ」の生地の目を見てください。炉内の熱も蒸気も逃がしませんから、浮き良く焼き上がり色艶がとてもいいです。生地の目も細やかで口溶けもしっとりと繊細です。オーブンに安定感があると、こうした焼きものにぶれがありませんから、27年間いつも同じ品質の商品を出し続けることができます。

内山 ありがとうございます。シェフの長い間のご信頼にこたえ続けられるよう、努力いたします。

材・ライティング

七洋製作所 代表取締役社長
内山 素行(うちやま もとゆき)

小さな頃から空手を学び、その上達とともに空手の魅力に引き込まれる。空手道の全日本大会で3度の日本一となる輝かしい経歴を持つ。空手で会得した相手との技の駆け引きや、間合いの読みはビジネスの極意にも通じる。時代を読み、常に新たな展開を提案する内山氏は、菓子業界で“菓子店の羅針盤”と呼ばれ、菓子づくりを志す職人が認めるオーブン「バッケン」を製造販売する株式会社七洋製作所の代表取締役社長をつとめる。自らの発想でつくりあげたオーブンは、日本の通商産業省が設立したグッドデザイン賞を3回も受賞する快挙を成し遂げた。1956年、日本国 福岡県生まれ。

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