菓子職人という職業を選んだ以上、
自分が納得できる
“仕事”をすることが私の哲学

福岡県福岡市

フランス菓子 16区

代表取締役社長

三嶋 隆夫

ブルーベリーパイ

三嶋 “一生一品”、いい言葉ですね。お客様の心に永く刻み込まれるような、自分らしいお菓子を一生かけてつくることは、菓子職人にとって最高の夢です。そのためには、小さなことでも簡単に妥協せず、気持ちを込めてプロとしての“仕事”をしてきました。

内山 ムッシュにとっての“一生一品”は、やはりダックワーズでしょうか。

三嶋 もちろんダックワーズもその一つですが、あえて“ブルーベリーパイ”を選びたいですね。ダックワーズはパリにいる頃からお菓子にする構想はできていたし、日本に帰って試作してもイメージ通りにできました。しかし、“ブルーベリーパイ”は、時間もかかったし苦労しました。

内山 そんなに難しかったのですか。


三嶋 はい、長い間できませんでした。しかし、その時間は自分の“ブルーベリーパイ”をつくるためには必要な時間でした。私が帝国ホテルに入社して初めて“ブルーベリーパイ”を食べた時の感動は忘れられません。当時はまだブルーベリーそのものが珍しい時代でした。「この世にこんなおいしいものがあるのか。いつかこれを超えるものをつくりたい。」それ以来、このお菓子が私の菓子職人としての目標になりました。
私の祖父が亡くなった時には、帝国ホテルの“ブルーベリーパイ”を買って夜行列車に飛び乗り福岡に戻り、棺で眠る祖父のそばにそっと置いて、「僕は菓子職人として、これに負けないお菓子を絶対につくります。」と誓いました。それだけ思い入れのあるお菓子です。私がパティシエである証のようなお菓子なのです。だから、私らしい“ブルーベリーパイ”じゃないと納得できなかった。

内山 こだわりのポイントをお教えいただけますか。

三嶋 ブルーベリージャムの柔らかさです。通常のフィリングよりもかなり柔らかくしましたから、焼くと生地が焼ける前にフィリングが噴き出してしまう。フィリングを硬くするとうまく焼けましたがそれではあたりまえなのです。私の“ブルーベリーパイ”は、この大きさで、この柔らかいフィリングがイメージでした。
ある時、「フィリングには火が入っているのだから、外のパイ生地が焼ければいいのだ。」と気づきました。そこで通常200~220℃で焼く温度を一気に350℃に上げようと思いました。しかし、今まで350℃で焼いたことなど一度もありませんし、スタッフが「爆発するかもしれません。」というものだから、そんなことがあるわけがないと思いながらも、念のために七洋さんの工場長に「バッケンは350℃で焼いても大丈夫ですか。」と電話で問い合わせました。「10時間の連続焼成なら大丈夫です。」と答えをもらって350℃で焼きました。
そうしたら、びっくりするほど上手く焼けたのです。しかも、焼成時間は4分弱。こんなに短い時間で焼けるとは思いませんでした。こうして、私のイメージ通り納得できるどこにも無い“ブルーベリーパイ”ができあがったのです。これも、350℃の高温でも安定した火を持つバッケンの焼成力があったからです。おかげさまで、多い時には一日に1000個以上売れるフランス菓子16区の看板商品になりました。

内山 ありがとうございます。ほんの小さな力ですが、パティシエのみなさまの“一生一品”をつくるお手伝いをさせていただけることを誇りに思います。

材・ライティング

七洋製作所 代表取締役社長
内山 素行(うちやま もとゆき)

小さな頃から空手を学び、その上達とともに空手の魅力に引き込まれる。空手道の全日本大会で3度の日本一となる輝かしい経歴を持つ。空手で会得した相手との技の駆け引きや、間合いの読みはビジネスの極意にも通じる。時代を読み、常に新たな展開を提案する内山氏は、菓子業界で“菓子店の羅針盤”と呼ばれ、菓子づくりを志す職人が認めるオーブン「バッケン」を製造販売する株式会社七洋製作所の代表取締役社長をつとめる。自らの発想でつくりあげたオーブンは、日本の通商産業省が設立したグッドデザイン賞を3回も受賞する快挙を成し遂げた。1956年、日本国 福岡県生まれ。

お問い合わせ

お困りのことがございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。