素直に原点を受け入れて感謝し、
本質を見極めるところから
「五感」は始まった。

大阪府大阪市

五感 GOKAN

代表取締役社長

浅田 美明

お米の純生ルーロ

内山 浅田社長にとっての「一生一品」をお聞かせいただけますでしょうか。

浅田 そうですね、私にとっての「一生一品」は「お米の純生ルーロ」です。このお菓子は私が「五感」を開店して最初にお客様にお届けしたお菓子で、今日も、そしてこれからもずっと大事にしていかなくてはならないお菓子です。いろいろなことを経験して、ようやくたどり着いた私の菓子の原点とも言えます。
 若い頃の私は、小さなお店をオーナーシェフとしてしっかりと大きくしていく1店舗主義こそケーキ屋の魅力だと思っていましたし、それを実現されている先輩方に強く憧れていました。私の実家は洋菓子店を営んでいましたが、理想の店をつくり上げたいという夢を叶えようと父と大喧嘩して家を飛び出して、自分で店を開いてしまいました。今だからわかることですが、私は誰と比べても修行とか菓子づくりの技術について気持ちでは負けませんが、正直に言って、その経験値では憧れていた先輩方のようには、上手くいかなかったはずなのです。どこかで頭を打っていたでしょう。
 そんな矢先に父と母が、二人とも癌を患ってしまったのです。弟は店を一人で回すのは荷が重いから戻ってくれと言い出すし、両親はこれを機に引退したいと言うし、仕方なく父の商売を継いで自分の店と実家の両方の店を見るようになったのです。そんな両親も今は大変元気です。今から考えれば、あのまま自分の夢を追いかけても、私の力では町の小さなケーキ屋で終わっていたかもしれません。両親が病気になってしまったことはとても悲しかったし大変でしたが、運というのでしょうか、父の商売を継いで実家に戻るタイミングをもらったのです。それでも「仕方ないなあ。」という感じで戻ったのを覚えています。人間としてはまだまだ心の部分ができ上がっていませんでした。

内山 若い時は血気盛んで、あと先を考えないでがむしゃらに行動してしまう、私にも覚えがあります。

浅田 複数の店舗を見ながらですが、先輩方にお菓子を召し上がっていただいてご意見をうかがったり、お菓子を買って帰って一生懸命にお菓子を研究しました。その後、デパートで催事のご縁をいただいたことから、たくさんのパティシエの方から様々なことを学ばせていただきました。やがて店舗も4店舗に増え、2003年には「五感」を大阪のデパートに常設店として開店することになり、そこで出したのがこの「お米の純生ルーロ」です。このお菓子の中には私が父と母に育てられてきた原点があったと感謝しています。父とはさんざん大喧嘩しましたが、結局、私は昔から父が厳しく言っていた「米一粒も大切にしろ。」「人様にご縁をいただいたら恩は忘れるな。」という言葉のもと、日本の農家さんと心のこもったお菓子づくりを目指すことになるのです。当時、米余りによる減反政策によって食料自給率が40%を切るという状況でしたから、日本人が本来一番大切にしなくてはならないお米を使った菓子をつくろうと、北陸4県のお米をひいていただいてできたのがこの「お米の純生ルーロ」です。お米のロールケーキは当時、まったくありませんでした。できる限り国産素材で“日本の洋菓子”をつくろうというのが「五感」の一番根底にある考え方です。中には栗を入れずに、母の故郷である丹波の黒豆を入れました。なんだかんだ言っても、結局父に言われた教えを守っているし、母の愛着のある故郷に素材を求めました。心から両親には感謝しています。
 私ども「五感」という店は、中に入ったら、おいしそうに焼き上がってくるお菓子の姿が見えて、いい匂いがする。「いらっしゃいませ!」という気持ちのいい声も聞こえる。作業する音も聞こえる。こうして味覚、視覚、嗅覚、触覚、聴覚の“五感”すべてに訴えかけてお客様にご満足いただける店づくりを心掛けてきました。七洋さんのバッケンは「五感」を伝えるための素晴らしい表現者だったと思います。

内山 ありがとうございます。「五感」様のさらなる目標をお聞かせいただけますか。

浅田  「五感」は2005年にここ北浜に本店を構えました。大阪生まれの大阪育ちの私は、この大阪の中心で大阪の人たちが誇れるお菓子をつくり続けたいと思います。こうした私の夢の実現を従業員みんなが協力してくれています。みんなの生活や幸せを実現していくことも私の仕事です。「五感」は成長をいったんここで止めて、成熟を目指したいと思います。

材・ライティング

七洋製作所 代表取締役社長
内山 素行(うちやま もとゆき)

小さな頃から空手を学び、その上達とともに空手の魅力に引き込まれる。空手道の全日本大会で3度の日本一となる輝かしい経歴を持つ。空手で会得した相手との技の駆け引きや、間合いの読みはビジネスの極意にも通じる。時代を読み、常に新たな展開を提案する内山氏は、菓子業界で“菓子店の羅針盤”と呼ばれ、菓子づくりを志す職人が認めるオーブン「バッケン」を製造販売する株式会社七洋製作所の代表取締役社長をつとめる。自らの発想でつくりあげたオーブンは、日本の通商産業省が設立したグッドデザイン賞を3回も受賞する快挙を成し遂げた。1956年、日本国 福岡県生まれ。

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