固定窯進化論

「下火がコントロールできる。」

固定窯では下火が上火の影響を受けることは仕方のないことだと考えられてきた。しかし今、固定窯は進化した。下火は上火の影響を受けることなく自在にコントロールできるようになったのだ。

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固定窯進化論

今までの当たり前は当たり前ではなくなった

「下火がコントロールできる。」

固定窯で下火が上火の影響を受けずに
菓子を焼けることをイメージできるだろうか。
捨て天板をかまし熟練した職人の勘で
コントロールしてきた下火を、自在に操れるのだ。

(株)七洋製作所 代表取締役社長
内山 素行

「下火をコントロールできる、
固定窯の最終形ができあがりました。」

固定窯は下火が上火に引っ張られるという構造上の常識

固定窯は上火と下火で菓子を焼成します。ほとんどの窯が上火の方が下火よりも高温の場合が多く、下火の温度は上火の温度に引っ張られます。空焚きなどをするとその影響は顕著です。
しかし、おそらく菓子をつくられるどなたも、「それは構造上仕方のないこと、それが固定窯だ。」とお思いになっているのではないでしょうか。そして、それを前提に作業していらっしゃるのではないでしょうか。
こうして固定窯の下火は上火に引っ張られることは常識として、菓子専門店のメインオーブンとして今まで活躍してきました。

固定窯は最終形ではないという確信

私も構造上、固定窯の下火の温度が上火の温度に引っ張られるのは仕方のないことだと思っていました。
しかし、菓子店の人手不足が慢性化する中、職人の勘と技で捨て天板をかませながら微妙に固定窯の下火をコントロールするのを見るにつけ、今の固定窯はまだまだ最終形ではないのではないかと以前から考えていました。
実は私の父である弊社創業者の故 内山善次も今から40数年も前から固定窯の下火のコントロールは研究追究していたテーマでした。
父は誰でもカステラが焼けるようにと「南蛮窯」をつくり上げました。「南蛮窯」は高い密閉性とコンピュータ技術で繊細な温度管理を実現し、唯一の“カステラ窯”として評価されました。
それでも父は、カステラ職人がカステラを焼くたびに炉床を新しいものに替えることを気にしていました。
これによって下火をコントロールできていたかは分かりませんが、それほどカステラ職人は下火を大事にしていたのでしょう。その様子をよく知る父はこの重要性をずっと考えていたようです。
人手が減り技術のある職人がいなくなっていく現代に、これからの固定窯は誰にでも高品質な菓子が焼けなくてはなりません。時代に合わせて固定窯も進化しなくてはならないのです。進化しないものは生き残っていけない。今までの当たり前は当たり前では通じなくなる。私はこれからの時代はすべてがそうなのだというプレッシャーを感じました。
それと共に未だ職人の力に頼っている下火温度のコントロールこそが、固定窯の最終形を完成させることになると確信したのです。
生地を固定窯に入れて焼き上がりを知らせるブザーを待つだけ。こうしたレベルの固定窯なしではもはや菓子店は立ち行かなくなるでしょう。固定窯はさらに進化しなくてはならないのです。
長時間空焚き状態にしておいても、上火の影響を全く受けない下火ができれば…。私どもは、すぐに動き始めました。

下火コントロールへの挑戦

こうして下火安定の試行錯誤を繰り返している中で、11もの店舗でお客様の目の前でチーズケーキを焼き上げて販売するという、他店にはない際立ったコンセプトをお持ちのリクロー(株)様と出会い、ご一緒に、下火コントロールへの挑戦を始めることになります。リクロー(株)様にとってもチーズケーキの安定した焼き上がりには下火のコントロールは不可欠だったのです。
完成までには長い時間とスタッフの忍耐強い作業が必要でしたが、ようやく完成することができました。「スーパーバッケン」にはこの下火をコントロールできるシステムが装備されています。固定窯が進化するとはどういうことなのかを皆様にもお分かりいただきたく、今回、リクロー(株)様を取材させていただきました。
リクロー(株)様の経営理念と併せてご覧ください。

創業者 内山善次

次世代パワーオーブン
スーパーバッケン

「プルプルと揺れる焼きたてチーズケーキを
お客様の目の前で提供するという究極のシズル感。」

リクロー(株)
企画部 部長
中村 真士

リクロー(株)
企画部 メンテナンス部長
齊藤 義昭

内山 「焼きたてチーズケーキ」で大変ご成功されているリクロー(株)様のご創業はいつでしょうか。

中村 私どもの創業は1956年の7月24日、大阪・西成の長屋の一角でスタートしました。創業者の故 西村陸郎は煎餅屋、菓子の卸問屋で丁稚奉公した後、1人で頑張ろうと独立。店舗も屋号もなく、鉄板1枚しかありませんでしたから、どら焼きを焼いて自転車で汗だくになりながら売り回ったそうです。「りくろーおじさん」という名前は創業者の名前からきています。

内山 まさに、裸一貫でここまでお店をつくりあげてこられたのですね。

中村 そうです。高度成長期という時代の流れもありましたが、当時どの店よりも早く冷蔵ショーケースを導入したり、生クリームを使ったケーキの開発など、時代の流れを見据えた鋭いマーケティング力を持っていたのでしょう。いろいろと困難はあったようですが、お菓子をつくる側の都合ではなく、常にお客様のご要望にお応えするお菓子を提供し続けることにより、今に至っています。

創業者 西村陸郎様

独立当初の自転車

「焼きたてチーズケーキ」は2020年10月1日より¥735
(取材日は2020年9月10日)

内山 「焼きたてチーズケーキ」はいつ頃始められたのでしょうか。

中村 今から36年前になりますが、1984年に北加賀屋店をオープンする時に、何か目玉になるものはないかなということで始めました。
ご存知の通り、その頃のチーズケーキと言えば冷たくて、上にはジャムが乗っていて冷やして食べるものでした。そもそもケーキというのは冷たいものという概念が強かったために、最初のうちは「焼きたてチーズケーキ」はなかなかお客様にご理解いただけず、「チーズケーキの焼きたてってどういうこと?」というありさまでした。
それでも創業者の西村陸郎は、「できたては絶対うまいんや。だから焼きたてを提供すればお客様に絶対喜んでいただける。」と販売をやめませんでした。しっかりとした根拠があるわけでもなかったのですが、焼きたてのコンセプトにお客様は必ずついてきてくれるという強い信念を持っていました。当時消費税もありませんでしたので、ワンコイン、1個500円で、6号の「焼きたてのチーズケーキ」を販売したのです。食べて美味しいのは当たり前で、お手頃感がないとお菓子ではない、というのが創業者の思想でした。
これが後に、大丸心斎橋店のイベント出店をきっかけとして、さらになんば店の開店と同時に「焼きたてチーズケーキ」に行列ができる店になっていきました。

内山 なるほど、西村陸郎氏のお客様の嗜好の変化を見据えた、新たな洋菓子の展開ですね。
「チーズケーキが焼き上がりました。」というスタッフの言葉とともに鐘の音が店内に響き、焼き上がりをお客様に知らせ、プルプルと揺れるような焼きたてのシズル感を見せる。待っている間のお客様のワクワク感はたまりませんよね。まさに、美味しさを五感に訴える展開です。

中村 ありがとうございます。「焼きたてチーズケーキ」のふわふわのドームのように浮いた面に、焼印を押す発想は創業者の煎餅屋としてのキャリアによるものでした。お客様の目の前でこれを押すと煙が上がる、極めつけのシズル感をお客様に提供しています。ちなみに焼き印のイラストは創業者の顔をデフォルメしたものです。
しかし、お客様の目の前で焼きたてのチーズケーキを提供することはそんなに簡単なことではありません。最初の頃は随分とロスを出していました。時にはオーブンの中のチーズケーキを全部失敗させたこともあったようです。行列ができるほど売れるのはとてもいいことなのですが、商品がコンスタントに焼成できないためにお客様にお待ちいただくということになりかねなかったのです。

内山 ただでさえ焼成が難しいチーズケーキを、お客様の目の前でどんどん提供していくのは、確かに簡単なことではありません。ところで「りくろーおじさんの店」は何店舗展開されているのでしょうか。

中村 今は11店舗ございます。

内山 普通は、それだけお店が多店舗化していくと、どうしてもセントラルキッチンで商品をつくって各店へ運ぶという考え方になりがちですが。
中村 いいえ、私どもが提供させていただくのは焼き上げたチーズケーキの美味しさだけでなく、それを楽しむ流れなのです。それぞれのお店の目の前で“焼きたて”をご覧いただくことで、それをお客様が家に持ち帰って、「これ、焼きたてやってんで。」と一言いうと家族が集まって、「皆で食べようか!」って箱から出して、人数分に切って、食べて、なくなってしまったら「美味しかった。また、買いに行こか。」となる。こうした心和む流れができてこそ、我々の理念である“おいしい笑顔をふやしたい”の実現につながるのです。

「固定窯の下火がコントロールできることは、
これからは当たり前の機能になるでしょう。」

内山 私はこちらの厨房を外からずっと拝見させていただいておりますと、生地をつくり、焼成し、焼きたてを提供する、この一連の作業が本当にシステマチックに、そして流れるように進む様子にとても驚きますし、同時にスタッフの皆さんの意識の高さに感動します。

齊藤 お客様の笑顔はもちろんですが、従業員の笑顔も、お取引先様の笑顔、皆さんの笑顔を増やしたいというのが我々の経営理念です。それを皆で目指しています。そのためにはスタッフの皆が気持ちよくパフォーマンスして、暑くなく、汗もかかずに清潔で気持ちよく笑顔でチーズケーキを出し入れしてお客様に提供できる。こうした製造環境を整えて人材を育てていくことは、これからの時代にはますます重要なことになります。
私はパティシエ出身ですが、たまたま学校で食品工業を学び少し機械関係には知識がありますので、それをいかしていろいろな創意工夫をして「焼きたてチーズケーキ」の製造環境を整えてきました。
スタッフ全員が焼成の難しいチーズケーキを高いレベルで気持ちよく焼き上げるためには、製造環境を次々に改善する必要がありましたし、特に固定窯の機能向上が不可欠でした。

内山 具体的にいうと、固定窯のどのような機能でしょうか。

齊藤 下火をコントロールする機能です。
固定窯には上火と下火がありますが、必ず上火に下火が引っ張られていきます。これは構造上仕方のないことですが「何かでけへんのか?」とずーっと思い続けてきました。私もパティシエとして半熟チーズケーキを焼く時には、下火をコントロールするために天板を3枚くらいかませて、その間に新聞紙を挟んで水を入れる、そうしたことを長い間繰り返してきました。
10年ほど前にスタッフの女の子が「オーブンが切れました?」と言ってきたことがあります。「どうしたの?」と聞くと、「下火が下がらないから炉内に水をかけました。」と答えました。設定されている温度まで下火が下がらないために、ボウルの水を一気にかけたと言うのです。
とんでもないことです、ブレーカーが一瞬で落ちて、幸い怪我なく済みましたが「こんなことがあるなんて! このままではあかんな!」もうその時は頭をハンマーで殴られたような感じでした。
こんなことがあって、「やっぱ! 下火をコントロールせな!」と長年思い続け、既に他のオーブンメーカーでの改造機をベースに、店舗リニューアルの際に既存バッケンにも下火コントロールの改造ができないかと七洋さんにご相談しましたところ、手間のかかる難しい改造にもかかわらず快くお引き受けいただけました。

 内山 実は七洋の創業者である私の父も、固定窯の下火のコントロールが重要と考え研究しておりました。
齊藤様から「下火のコントロールを更に進化させたい!」というお話をいただいた時に、父と同じことをおっしゃる方がいらっしゃることに大変興味を持ち、ご一緒に開発させていただこうと思ったのです。

齊藤 「オーブンに穴を開けて下火に空気を入れていますが、熱がファンに戻り困っている。」というところから始まりましたね。
上火の影響を受けて上がった下火の温度を、空気を入れることでコントロールできると思ったからです。しかし、空気を入れれば温度が下がるという簡単なものではありませんでした。
熱も戻るし、下火面全体の温度が均一化しないと当然焼成は安定しません。空気を入れた箇所は温度が下がりますが、構造上他の箇所はあまり下がらないという問題も下火全面の温度分布のデータを毎日取りながら、長い時間をかけて解決するお手伝いをしていただけました。
おかげさまで今年、伊丹空港店に導入できたバッケンVer.4は、下火をコントロールするという長年の課題を解決した画期的な固定窯になりました。
生地を入れて焼き上がりのブザーを待つだけ、固定窯の下火温度は安定しづらいという概念はなくなりました。これなら「焼きたてチーズケーキ」を500個焼いても1000個焼いても同じクオリティーで焼き上がります。季節を問わずに誰が焼いても同じように焼け、ロスがなくなるのです。
これはチーズケーキに限らず、和菓子、洋菓子にも用途が広く作業工程に関係なく初心者のパティシエでも直ぐ扱えるオーブンです。私どものシューやパイなどにも良い影響をもたらします。

内山 固定窯の下火をコントロールするということは、私どもオーブンメーカーにとりましても宿願でありました。ともに成就させることができて感謝いたします。
このシステムは今回新発売いたしました「スーパーバッケン」に次世代の新機能として装備させました。

 中村 りくろーおじさんの「焼きたてチーズケーキ」を300年続くお菓子にすることが私たちの目標です。
そのためにはお菓子の磨き込みと同時に、従業員が笑顔で働きやすい製造環境の磨き込みも重要です。今回の新機能は私どもの経営理念をよりはっきりとさせ、確かなものにしてくれました。
下火をコントロールする機能は固定窯にとってこれからはごく当たり前の機能となり、菓子業界の製造現場を良い方向に導いていくでしょう。

《オーブンメーカー宿願の下火をコントロールするシステム》

(株)七洋製作所
代表取締役社長
内山 素行

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