「小山ロール」は2000年から
2003年まで試作を繰り返して、
ようやくできた主力商品です。

兵庫県三田市

パティシエ エス コヤマ

代表取締役

小山 進

小山ロール

内山 小山シェフの「一生一品」は何でしょうか。

小山 「小山ロール」です。このお菓子は私にいろいろなことを教えてくれました。「小山ロール」はオープニングの時に、「パティシエ エス コヤマ」を代表する主力商品にしようと思って試作を何度も何度も繰り返し、当時の最高のレベルでつくり上げた商品でした。今、14年目になって、1日最大1600本ほど売り上げています。
 しかし、オープンの時には、他の商品もありますから「小山ロール」は200本しかつくれなかったのです。朝、開店して2時間で全商品が売り切れてしまい、4時間かけて追加でつくっても30分で再び全商品が売り切れてしまいました。こうした状況を見て「小山ロール」の商品の位置づけをどこに持っていくのか、つまり、店の売り上げの中で「小山ロール」の売り上げのパーセンテージをどれくらいにするのがいいのかを考えました。
 「小山ロール」に売り上げのウエイトを置いて主力商品にすることは、スタッフ8人だった私たちに合っていました。ショーケースのスペースも十分ではない、だから焼いては巻く、焼いては巻く、これを繰り返すことがお菓子の品質的にも効率的にもいいと思ったのです。
 ある時を境に、1日200本の数を増やしてみようということになって、300本、400本に増やしていきました。そうすると他の商品が売り切れてしまう時間が先に伸びだしたのです。600本、700本、全体売り上げの何割が一番いいかということは、スタッフの技術が上がればまた割合が変わります。そうして最終的にMAX1600本という数字を確立してきました。

内山 なるほど、小山シェフの主力商品をつくる考え方がよくわかりました。しかし、伸びた販売数量を継続するのはさらに難しいことだと思いますが。

小山 その通りです。こうしてできた「小山ロール」を永遠にお客様に買っていただくためにはどうすればいいか。そこで思いついたのが商品組織図をつくることでした。人は忘れる生き物ですので、忘れられないようにしていく秘策として、「最近小山ロール食べてないな、小山ぷりんは食べたけど」というように少しでも思い出していただけるよう、それぞれの商品に明確な役割を与えました。「小山ロール」を生ケーキ部の部長、その下に課長として「小山ぷりん」、そして「小山チーズ」。また、1年間プリンを販売していてもお客様が飽きないように「季節の小山ぷりん」を導入しました。「小山ロール」は飽くまでもプレーンタイプをメインとして、バレンタインの2か月間だけ「マイルドショコラ」を出します。これも「小山ロール」のプレーンタイプを存続させるための秘策なのです。こうしてすべてのカテゴリーで部長を核として、それぞれの菓子がそれぞれの役割を果たしていく商品組織をつくっていきました。

内山 「小山ロール」をつくり上げる過程でバッケンはお役に立ちましたでしょうか。

小山 バッケンがなければ今の「小山ロール」はなかったと言っていいと思います。普通ならふわっと浮いたら、すぐに窯落ちして割れるような生地をじわじわと浮かして落とさない。最も重要なことは気密性です。「小山ロール」は焼けて20分経ったら巻けません。そういうレシピにしました。美しい黄金色に焼けた焼き面を断面から見たときの上品な薄さは絶妙で、この焼き面がめくれてしまわないように焼成します。この加減が小山ロールの良い生地のポイントです。
 ギリギリのポイントはオーブンの気密性と抜きの世界です。いかに炉内の蒸気を丁寧にコントロールするかで決まるのです。気候変化のある日本で四季を通していかに安定して焼成するか。これは、フランス人のパティシエでさえわかっても真似できない領域なのです。これこそが、日本人のモノづくりなのです。バッケンは日本のオーブンです。バッケンが持っている日本人の丁寧なモノづくり気質が私たちにも宿っているのです。だから、「小山ロール」という難しいレシピを実現してくれました。オープンする前に開発した「小山ロール」と今のものとレシピは同じです。しかし、上がりが違います。「小山ロール」はバッケンとともに毎日毎日ちょっとずつ着地のレベルを上げたのです。「小山ロール」のような科学的なレシピと、そのレシピを焼成できるオーブンと、私たちのお菓子に対して厳しい目を持つお客様との三位一体の関係があってこそ、今の「パティシエ エス コヤマ」があると思っています。この3つが合わさってこそ素晴らしいお菓子ができ上がるのです。

材・ライティング

七洋製作所 代表取締役社長
内山 素行(うちやま もとゆき)

小さな頃から空手を学び、その上達とともに空手の魅力に引き込まれる。空手道の全日本大会で3度の日本一となる輝かしい経歴を持つ。空手で会得した相手との技の駆け引きや、間合いの読みはビジネスの極意にも通じる。時代を読み、常に新たな展開を提案する内山氏は、菓子業界で“菓子店の羅針盤”と呼ばれ、菓子づくりを志す職人が認めるオーブン「バッケン」を製造販売する株式会社七洋製作所の代表取締役社長をつとめる。自らの発想でつくりあげたオーブンは、日本の通商産業省が設立したグッドデザイン賞を3回も受賞する快挙を成し遂げた。1956年、日本国 福岡県生まれ。

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