2か月に一度、ディスプレイも
POPも生ケーキも変えて店内に
入った時の印象を変化させる。

新潟市中央区

ルーテシア

代表取締役

川上 啓介

シュークリーム

内山 洋菓子店とは思えないスタイリッシュなお店の外観や洗練された生ケーキの展開など、川上社長は独自のやり方でルーテシア様をつくり上げてこられました。ご成長の秘訣のようなものがございましたらお聞かせいただきたいのですが。

川上 秘訣というようなことではないのですが、私どもでは“2か月に一度ご来店いただくお客様”を想定して、このお客様を満足させることを考えます。商品開発は私が絡んでやりますが、特に目で満足させることを売り場にも言っていて、お菓子の位置も移動させますし、ディスプレイやPOPも2か月に一度は変えます。
 たとえばお客様が2か月ぶりにドーナツを買いに来店されたシミュレーションをしてみましょう。2か月前にドーナツを置いてあった位置を変え、代わりに別のものを置いておきます。お客様がご来店されて「あれ?ドーナツはどこいったのかなあ。」と店内を目で探します。ドーナツを買いにいらしたのですが、最初に目に入ったお菓子を「これもいいじゃない!」と衝動買いしていただけるかもしれません。こうして客単価が増えていきます。テーブルもなるべく移動したりして、とにかくお客様がお店に入った時の印象を変えるのです。印象を変えるためにはリニューアルという方法もありますが、コストがかかるために頻繁にできませんし、意外とお客様は床の素材や壁紙等は見ていませんから、その効果も長続きしません。
「2か月に一度は印象を変えないと、お客様に来てもらえない。」という危機感を持ってやっていなかったら間違いなく売り上げは下がりますね。生ケーキも2か月過ぎたら5種類以上は変えています。

内山 2か月に一度とは相当大変ですね。しかし、その努力がお客様を引き付けて離さないのでしょう。

川上 “変える”といえば、4年ほど前に「シュークリーム」をモデルチェンジしました。このシュークリームには特別な思いがあります。25年前に12.5坪の本当に狭い店でスタートしてからずっと私と一緒に走ってきました。この焼き立てつくり立ての「シュークリーム」があったからこそ今があるとも言えます。
 昔は、「シューは熱いうちに仕込み終えて、熱いうちに絞って、霧を吹いて、すぐにオーブンに放り込め、そうしないと浮かない。」というのが当たり前でした。ところがそうやって作業していると、やがて販売に製造が間に合わなくなりました。そこで、「ちょっと冷凍庫に入れてみようよ。」ということになったのです。凍らせたシュー生地を2台のオーブンで焼き分けてみると、一方はやはりうまく浮きませんでした。しかし、七洋さんのバッケンはシューがとても綺麗に浮いて、「これならいける!」ということで、“焼き立て”をさらにたくさん提供できるようになり完璧なローテーションができました。それ以来ずっと稼ぎ頭になっています。

内山 そんな大切な「シュークリーム」のレシピを変えていいのでしょうか。

川上 開店以来20年以上ずっと売れていましたが、それでもレシピを変えたくなったのです。売れているのに変えるのはお客様にも申し訳ないし、売り上げも減るかもしれないと思いましたが、世の中の味の好みも変わってきたと感じていましたし、「つくりたいものをやった方がいいぞ。」とアドバイスしてくれる方がいて、その一言に背中を押されて思い切って変えました。
 シューの皮はもっと食感が出るように、今までの皮の上にクロッカンの生地をのせてクリスピーな歯ごたえのある感じにして、カスタードは生クリームを多くして全体的に脂肪分を上げつつも軽い切れを持たせました。結果的にはお客様からもご好評をいただいています。私の一生一品は、このレシピを変えた「シュークリーム」です。
 店内の印象を変えることも、生ケーキを変えることも、定番をズバッと変えることも思い切ったことのように見えるかもしれませんが、意識するのは“軸がぶれないこと”です。

内山 それにしても川上社長がそうした変化をすばやく見極め、いさぎよく大胆に変えていかれることに驚かされます。

材・ライティング

七洋製作所 代表取締役社長
内山 素行(うちやま もとゆき)

小さな頃から空手を学び、その上達とともに空手の魅力に引き込まれる。空手道の全日本大会で3度の日本一となる輝かしい経歴を持つ。空手で会得した相手との技の駆け引きや、間合いの読みはビジネスの極意にも通じる。時代を読み、常に新たな展開を提案する内山氏は、菓子業界で“菓子店の羅針盤”と呼ばれ、菓子づくりを志す職人が認めるオーブン「バッケン」を製造販売する株式会社七洋製作所の代表取締役社長をつとめる。自らの発想でつくりあげたオーブンは、日本の通商産業省が設立したグッドデザイン賞を3回も受賞する快挙を成し遂げた。1956年、日本国 福岡県生まれ。

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