Vol.34
アナログとデジタル

私は全国を回り続けて30年になります。昔ほどの回数ではありませんが、20名~25名のユーザー様にお集まりになって頂き、「南蛮会」という小さな講習会をやっております。その会で私は菓子店の現状や、どんな商品が売れているのか、そして、新しく見つけた売り方などの情報を実例に基づいてお話しいたします。また、全国を歩きながら感じたこともお話しいたします。
私が会の中でいつも皆様にお伺いすることがあります。それは「あなたにとっての脅威はなんですか?」という質問です。一番多く返ってくるお答えは「コンビニ」という言葉です。確かにお気持ちは理解できますが、しかし、私は逆にこのように考えます。「コンビニがなければ、あなたのお店は繁盛し続けていましたか?」ということです。皆さまも自問自答なさってみてください。
コンビニは現代のニーズに合ったやり方を模索し、新しい市場を創り上げました。逆に専門店は、お客様の消費動向の変化に対する専門店としての新しい商品構成や専門店らしい販売の研究を怠ってしまったのではないでしょうか。

菓子屋さんの流れは

ご主人が独立され、小さなお店で一生懸命に生ケーキを作り、それを一生懸命販売される奥様がいる。お店はまず、パパ&ママショップから始まります。
「狭いがゆえに生まれる臨場感」まさに、最高の専門店の販売の仕方かもしれません。
しかし売上げが上がっていき、人を雇用せざるをえなくなります。人使いの難しさや、人を雇用していくために利益率の向上が必要になります。そこで焼き菓子戦略→ギフト戦略とお店が変化していきます。ギフトは経営上絶対に必要ではありますが私は、ここに大きな落とし穴があるような気がするのです。ギフト戦略を強化すればするほど、百貨店と同じ様な販売の仕方になっていくということです。百貨店のような販売方式では、特に今の専門店は売れないのではと言う事です。

お店は永遠にアナログ

お客様が今求めているのは、きれいなパッケージやネーミングではなく、「本物であるかどうか」だと思います。お店に「売りたい商品の起承転結」があることがとても重要だと痛切に感じます。「起承転結」とは、その商品の素材選びから始まり、出来上がる姿や香り、まさにオーナー自身の武骨なまでにこだわった商品、そしてコツコツと作る姿へと続きます。そして、出来上がる生ケーキの迫力、奥様の命がけの接客、この流れに尽きると思います。まさにお店の人間味豊かなアナログ性こそが、今の専門店のニーズだと思います。

厨房はデジタルに

さて、少子高齢化により今後若い人の働く数が減るということは専門店にとって非常に大きな問題です。売れてうれしい半面、数をつくらなくてはならない苦しみが出てくることがあるのもこの仕事です。つくる事と売る事は、全く別の歯車で動いていることは事実です。
「売れる時を逃さず生産することができること」イコール、「鮮度のある商品をお客様に提供すること」になると思います。専門店の販売はますます人の温かみを感じるアナログ性が重要になり、厨房は少人数で効率よく生産力を上げるデジタル性が必要になるということだと思います。この二つのアンバランスをいかにバランスよくすることができるかが、まさに経営者の醍醐味だと思います。

私が色々な決断をするときに参考にしている言葉があります。将棋士の米長名人がおっしゃった言葉で「将棋を指す時に大切にしていることは、簡単な手ほど注意深く、用心深く、しっかり考えて駒を打つ。」「そして相手が読めず、とても難しく判断しにくい場面の駒のさしかたは、あまり深く考え過ぎずに駒を打つ。」私自身この考え方に随分救われました。つまり「答えが出ないような難しい事柄に心を奪われてしまい、目の前の当り前の対応が、おろそかになることが一番危険である。だからこそ、自分が置かれた身近な状況を、しっかり注意して正確に掌握し決断する。この繰り返しが難問をとく鍵である」という事だと私は解釈して実行しています。このような時代は「繊細であり大胆な決断」が必要な時代のような気がいたします。

ご健闘をお祈りいたします

(このブログはNANBANプレス47号に掲載されたコラムを再編集したものです。)

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