Vol.47
トッピングゾーンを作る

コロナというウィルスは、これまで経験したことがないような深刻な事態をつくり我々に襲い掛かってきております。お菓子の業界で一番影響を受けておられるのは、百貨店や空港や駅そして観光土産やインバウンド関係を中心としておられる方々です。逆に地域の専門店の方々は、飲食のようにイートインではなくテイクアウト中心ですから、学校の休校や自宅で食事をされることが中心になる為に、菓子の需要が上がり昨年よりも売上が伸びているお店もありましたが、緊急事態宣言が全国規模で出されてからは自主休業されるお店も増えてまいりました。そして、ウィルス自体が落ち着いた後でも日本経済に与えた爪痕は大きく、今後どのような状況となるのか予測はつきません。しかし、どのような状況でありましても、立ち止まらず次の一手を考えていかねばなりません。

岩手の人気ベーカリー

今年の1月にスタッフと新潟、福島、仙台、盛岡、山形など久しぶりに訪れました。そのころはまだコロナの影響はなく、今年はひどい暖冬だという話で東北は持ちきりでした。
ある方から岩手県のベーカリーの繁盛店があるという話を聞き、早速訪問することにいたしました。盛岡の中心地から少し離れた住宅地にあり、朝7時に参りましたがもう行列ができていました。
販売されているのはコッペパンが中心でカウンターの上部に札の様なものに名前が書いてあります。ジャム、バター、クリーム、バナナ、ヨーグルト、あん、粒あん、マーマレード、チーズクリーム、ホイップクリーム、ピーナックリーム、ゴマクリームなどその他約50種類ほどフィリングの名前がズラリと並んでいます。そしてカウンター越しにその材料を入れた大きな缶が無造作に置かれ、2名の女性スタッフがお客様のご要望を聞き、お客様の目の前でコッペパンの中にトッピングしていきます。そのスピードたるや非常に手際よく仕上げていかれます。
人気ナンバーワンはあんバター、2番ピーナッツバター、3番ジャムバター、4番抹茶あんとなっており、一番人気のあんバターを食べてみました。何といっても作りたてですから、あんとバターの水分がパンに移行しておらず、パンの味と中身がしっかりと主張しあい非常に美味しく出来立て感を堪能することができました。考え方としては、お客様の注文を受けてからシュー皮にカスタードを入れるシュークリームの感覚と同じだと思います。
コッペパンにトッピングを入れる姿はとても鮮度感があり、専門店ならではの手法です。このトッピング提案は、専門店が店づくりの中でもう一度取り入れるべきではないかとつくづく感じました。

手間をかけずに手をかける

お店はアナログに厨房はデジタルに、これが今の専門店が生き残る唯一の作戦ではないかと思います。厨房内は設備や半製品の活用などによって出来るだけ手間を減らし、その分お店での対応に手をかけるという作戦です。
まさにトッピング提案はアナログそのものであり、大変手はかかります。そこの”手をかける“ところこそがシズル感を演出する専門店ならではの大切な要素です。寿司屋が一人一人に寿司を握ることと一緒で、「あなたのために作っています」という演出は、お客様の満足度を上げて、より美味しく、よりありがたく感じていただけるものなのです。
人手不足の中ではありますが、注文したお客様の商品を目の前でトッピングするという、あえて”手をかけた演出“こそが専門店の最後の砦なのです。
この人手のかかる作業にいかに手間をかけず、手間をかけているような姿を演出して販売できるか、ということこそがテーマだと思います。

嗜好品と主食の両面をもつ

お店の衰退の原因は、来店客数の減少です。要するにお客様がお店に来る理由がなくなることであると思います。菓子は嗜好品でありパンは主食であります。今後景気が後退して非常に大きな不景気が来たときに、お客様がお店に来る理由として主食のパンもあることがお客様をつなぎ止める一つの手段ではないかと感じます。岩手の繁盛店ベーカリーの一番人気が「あんバター」であるという事も考えてみますとあんは和菓子であり、バターは洋菓子です。和菓子店でも洋菓子店でもパンという新しいキーワードで繋ぐことがお客様の来店頻度に繋がるのではないでしょうか。
「明けない夜はない」と言う言葉があります。今はこの言葉を信じて前を向き、この困難に立ち向かっていかなければと思っております。
皆様方のご健闘をお祈りいたします。

(このブログはNANBANプレス62号に掲載されたコラムを再編集したものです。)

お問い合わせ

お困りのことがございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。