Vol.15
オーナーの顔が見える事の大切さ

焼き菓子を売る

アテネオリンピックでは世界のトップアスリートたちの活躍に、たくさんの感動と勇気をもらいました。私は今、新潟に向う飛行機の中です。今年の夏は昨年の夏と違い、異常な暑さでどちらのお店も大変な苦戦をされたと思います。しかしそんな中にあっても、ブランド力を持った焼き菓子を持っておられるところは、しっかりと売上げを堅持されていますし、生ケーキ主体の店との格差が、一段とついた気がします。

お客様と焼き菓子の接点

お客様の気持ちとしては、洋菓子屋ではケーキを買うものであるということが一番にあるということです。その中で焼き菓子を売っていくことはとても難しいことです。しかし、焼き菓子が売れるということは和菓子、洋菓子店にとって今後発展していくために、経営という観点からは絶対に必要です。この事は経営者誰もが考えておられます。お客様に焼き菓子の存在に気づいて頂くには、生ケーキよりも目立つ焼き菓子のオープンキッチンによる臨場感の演出が絶対に必要です。

お店に入る、生のショーケースがあり美しい生ケーキが華やかに並んでいる、その横で作り手がオーブンを前にして一生懸命お菓子を焼いている、お客様はその焼いている焼き菓子のこうばしい香り、焼いている姿、オーブンから出てくるブザー音などによってお店の臨場感を感じる。しかしここまではよいのですが、お客様が焼き菓子を購入する為に、もっとインパクトのあるオープンキッチンとの接点があれば、さらなる購入動機になる。その為に何かが必要だと思っておりました。

お店の中にマルシェ(市場)を作る

昨年、10月にドイツのデュッセルドルフで開催された展示会に我社の野田部長と一緒に参りました時、野田部長が展示会場のコーナーに展示されていた、焼きたての非冷陳列ケースを見て、私に「これいいですねー」と声を弾ませて言いました。そのケースには美味しそうなフルーツが、華やかに焼きたてのパイやタルトの上に飾り付けてあり、今までにない焼き菓子の姿です。何よりも素直に焼き菓子を買いたいという気持ちになりました。
この販売方法はヨーロッパでは、よくやっておられるスタイルなのですが、あらためて、私と野田君はそのコーナーに見とれながら、前文でも書きましたように、もしこの後ろで焼いているところが見せられたら、只お菓子を作っているところを見せるのではなく、ケースの中で美味しそうに売られている焼き立ての菓子を、まず買い求める事から先にお客様が思って頂き、それから焼いているところをお見せする、この流れの方が焼き菓子を買うという気持ちが強くなると感じました。

フランス語でマルシェ(市場)とは、とれたての野菜や果物が盛って販売しているさまですが、このようにとれたて出来きたてのものを、そのまま販売する方法は非常に説得力がありお客様の目を引きますし、買ってみたいという大きな購入動機になります。
勿論、焼き立てをその場で販売するわけですから、その為の販売員とレジも必要だと思います。その場で決済できることが「店の中に店を作る」ことになるからです。お店の表現方法としてオープンキッチンとお客様をつなぐ接点としてマルシェスペースの構築は、洋菓子、和菓子店が焼き菓子を販売していく上で、新たな展開になると思います。

オーナーの顔が見える事の大切さ

先日、フランス菓子16区の三嶋社長が福岡の岩田屋というデパートで17日間ブルーベリーパイ、アップルパイの実演販売をされました。半坪の狭いスペースに小さなコンベクション1台でラックも置けないほどの狭さです。三嶋社長ご本人が朝から晩まで、汗だくになってその狭いスペースで、商品を焼きながらでの販売でした。三嶋社長は皆様方もご存知のように日本を代表する超繁盛店のオーナーであり、現福岡県洋菓子協会会長であります。何故社長みずからおやりになっているのですか、と尋ねると「このデパートでこのスペースでパイを焼き、販売することは一番大変だからだ」答えは単純明快でした。

お客様も三嶋社長みずからの焼成販売に、更なる16区への安心感と大きな好感をもたれたと思います。ゼロから16区ブランドを作られた三嶋社長の生きざまを感じ取る事が出来ましたし、作り手の顔が見えることの大切さをあらためて感じる瞬間でもありました。
アテネオリンピックで金メダルを勝ち取った選手に共通して言えることは、勝負を最後まで諦めず、絶対に金メダルを取るという気持ちが一番強かった人だけが、金メダルを獲得した事です。

焼き菓子ギフトを売るという事は非常に高いハードルです。その為には、色々な創意工夫をして何度も、何度もいどみ続ける事と、絶対に売るという信念が大切だと思います。
日本海が見えてきました。もうすぐ着陸です。皆様方の健闘を祈ります。

(このブログはNANBANプレス26号に掲載されたコラムです。)

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