Vol.10
サンゴの味

出張の醍醐味は色々なところを時間が空いたときに見ることが出来ることです。全国を回りながら、好奇心の強い私は、この目で見て触れて食して、様々な発見と出会いをしてきました。

石垣島の川平(かびら)にて

沖縄那覇空港から石垣島に向かうため、飛行機に乗り継ぎ50分程で石垣空港に到着。そこからさらに車で約30分走ると、川平(かびら)という小さな町というよりは、村といった風情の場所に到着します。ダイビングを少々たしなむ私が言うまでもなく、川平は人気のダイビングスポットであり、又、沖縄でも有名なきれいな海とサンゴがある場所です。町に着くと石垣出身の歌手ビギンの「なだそうそう」がかすかに流れ、はるばる石垣まで来たという感慨を覚えます。

私はそこの小さな民宿に宿を取り、早速散策を始めました。「空気がうまい!」香ばしいような潮風は、私を異空間に招いてくれます。浜辺を歩いていると3隻の小さな船があり、「お客さんきれいなサンゴをこのグラスボートで見ませんか?」と誘われました。船に乗り込むと、他の乗船客数人と船底を囲むような形で座ります。船底はガラスで出来ていて、海の中がまるでテレビのようによく見え、船が動き出すと、海底が船のスピードと同じ速度で見えます。海中を沖縄特有の真っ赤な色の魚や鮮明なマリンブルーの魚たちが、優雅に泳いでいます。その中で特に驚いたのは、海の中に広がるサンゴの豊富さとその美しさです。言葉では言い表せないそこは、まさにサンゴの王国でした。サンゴ礁の神秘的な美しさ、そしてその中を原色の魚たちが泳ぐ様には、とても感動しました。

サンゴの味

その夜、どこかで食事をしようと外に出ました。外は本当に真っ暗なので、幾つかの家の灯りを頼りに歩いていくと、この集落にある唯一のすし屋が見え、そこに入ることにしました。

ところが、店内の客はなんと私一人。とりあえずカウンターに座り、まずは沖縄の「オリオンビール」でのどを潤します。それから沖縄の地酒「泡盛」を少しずつ味わいました。何を食べるか考えていると、店のご主人が「是非、今朝取れた川平の魚を食べてくれ。」と薦めてくるので、博多出身の私にとって、沖縄の魚は少し大味かもしれないなと思いながらも、試してみる気になりました。無骨に大皿に盛られた白身の魚を箸でほぐし口にしてみると、「美味い!」

そのなんともいえない香ばしさと舌触りの良さは、今まで食べてきた魚とは違う味わい深いものでした。私が黙々と食べていると、ご主人が「川平の魚は美味いでしょう?川平の魚はサンゴを食べているから美味いんだよね。」と、沖縄独特の優しい笑顔とイントネーションで話しかけてきます。
昼間、グラスボートであの美しいサンゴ礁をまのあたりにしていた私にとって、「サンゴの味がするでしょう?」の一言は説得力があり、サンゴを食べたことはありませんが、なんと分かり易い表現だろうと感動を覚えました。
今でも「サンゴの味」という言葉は私の耳に残っています。

ギフト表現は平面的から立体的に

私が川平の魚をとても美味いと感動するに至る経緯は、沖縄→海→グラスボートに乗る→サンゴの美しさに感動→店で魚を食べる→その店主の言葉「サンゴの味がするでしょう?」となります。魚の味だけでは平面的な感覚で終わりますが、そこに至るまでの様々な経緯によって、味だけではなく別の要素が加味され、立体的に感じられることが、より一層の感動を与えるのだと思いました。

ギフトとは、その時その場所でこそ活きるもの。例えば、菓子をギフトとして選択する場合、その味だけで与えられる感動は、ある程度限界があります。そこで、その店を取り巻く環境や、オーナー自身のプロフィール、あるいは素材やこだわりなどを、分かりやすくお客様に伝えられれば、より感慨深いものになるのではないでしょうか。一つの菓子を取り巻くストーリーを作ることがギフトには大切だと思います。 「お客様にわかりやすく伝えるということ」これは、商いの原理原則だと思いますが、「サンゴの味」ここに、ギフトを売るためのキーワードがあるような気がいたします。

(このブログはNANBANプレス30号に掲載されたコラムです。)

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