Vol.20
夢を持たねば人は続かず

黒くよどんだ雲、その雲を飛行機はまるで大気圏を突き抜けるロケットの様に進みます。ゆれる機体、しばらくまんじりともしない時が過ぎ、そして一瞬にして想像もできない真っ青の空間が一面に広がります。その時のなんとも言えない心地よさ、私は飛行機に乗るたびにこの瞬間がとても大好きです。しかし、人生にはこの黒いよどんだ雲の時期があります。働く人、使う人、このバランスが狂う時が、この時期かもしれません。

突然の辞表

「社長、お店辞めさせて頂きます。」厨房内は一瞬海の潮が引くような、シーンとした空気が漂った。何故だと問いただすと、「すいません」の一点張り。
なすすべも無く彼は店を去っていきました。何故今の若者は仕事が続かないのだろう。非常に期待をしていた若者で、オーナー自身、彼の将来のことを思い本当の職人になり将来一人立できる事を、思えば思うほど厳しい言葉や態度になっていた事は事実かもしれません。「親の心子知らず」まさにそれを絵に書いたような状況です。ある講演会でこんな話を聞きました。

3人の石を運ぶ男達

エジプトを訪れた旅人が、3人の大きな石を運ぶ労働者に出会いました。3人の労働者は列を作り大きな石を運んでいました。体格的には皆同じぐらいです。
まず旅人は先頭の汗まみれになっている苦しそうな顔の男に質問をしました。「あなたは何故こんな大きな石を運んでるんですか?」男は汗でぐしゃぐしゃになった顔で遠くを指差し「あそこまで運べと命令されたからだ。」と投げやりに答えました。灼熱の砂漠の中の仕事、それは大変な重労働です。次に真ん中を歩く男に旅人は同じ質問をしました。そして2番目の男は「あそこにピラミッドという大きな建物があるだろう。あそこまで運ぶんだ。」と答えました。若干ではありますが先頭を歩く男より汗をかくのが少ないことに気づきました。
その時です。最後部を歩いてる3番目の男が目をギラギラ輝かせて俺にも聞いてくれと言わんばかりに旅人を見つめています。同じ質問を投げかけますと自信と誇り高き声で

「旅の人、私はエジプトという国を愛しています。そして偉大な王様を尊敬していました。その王が亡くなられその王様の為にエジプト独特の文化であるピラミッドを作るためにこの大きな石を運んでいます。私はエジプトの為、尊敬する王様の為に運んでいるんです。」

威風堂々とした姿は汗一つかいていませんでした。
同じ仕事でもそれを何の為にやっているのか、又その事が持つ社会的意義や自分の考えを持つことによって、これだけ働く姿勢が違うことだと思います。

菓子屋は小さなトータルメーカー

菓子は、お客様にやすらぎと笑顔を与える事ができる仕事です。(これがきっと原点であると思います)粉と砂糖と卵この三つのバランスで奏でる技の芸術です。まさに夢と喜びを作り上げる小さな一つのメーカーです。メーカーとは自力で原材料から製品を作りそしてその商品を販売する。値段設定はこちらの自由です。まさに生産から販売までを集約している、トータル企業であると言う事です。又、鮮度を要求する嗜好品ですから、中国や台湾などのアジアからの侵略もできないという、今の不況下の日本の中ではやり方によっては、非常に有望な業種である事は間違いありません。

メーカーになると言う事は大変難しいものです。その技を勉強するためには、皆が休んでいるときに働く事や、長い労働時間は当たり前だと思いますが、今の時代は、働く為の夢、ここで働く意義、この職業の持つ社会性、この様な事柄を、オーナー自身が若いスタッフと一緒になって考える事が大切な気が致します。

もし世の中に勝ち組と負け組みがあるとしたら、最終的にはこの部分の差がかなりの比重を占めるのではないかと思います。従業員が本当にやる気で一丸となっていく事ができる状況作り、これはオーナーにとって大事な仕事でありテーマです。
もうすぐ飛行機が羽田空港に到着します。ベルト着用のランプが点灯しました。

最後に一言
「やって見せ、言って聞かせてさせてみて、夢をもたねば、人は続かず。」
皆様方の健闘をお祈りいたします。

(このブログはNANBANプレス22号に掲載されたコラムです。)

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