兵庫県三田市
パティシエ エス コヤマ
電話 079-564-3192
内山 本店をオープンされてから、同じ敷地にお菓子教室を始められて、次にカフェをオープンされて、ギフトサロンをつくられて、パン屋さん、マカロン&コンフィチュール専門店、チョコレートショップと、9年間にどんどん新しいことをおやりになって来られました。その発想と原動力はどのようなものなのでしょうか。
小山 私は、気に入らないことや、納得できないことは、すぐにその状態を変えなくては気が済まない性格なのです。一日も我慢できない。開店してからずっと、自分で気が付く日々の違和感やお客様からのクレームをどう解決するかを考えて実行してきました。もちろん明日にでも変えられることもあるし、時間をかけて建物を建てないと変えられないこともあります。
内山 具体的にはどういった事でしょうか。
小山 たとえば、お店にとっての”庭”を考えてみると、私にとって”庭”は商売の重要な要素です。最初に本店がオープンして、まず、庭が気に入らなかったのです。「えっ、これが私のやりたかった庭?入り口から全部見渡せてしまう。これじゃだめだ、庭ってもっと歩いて行かなくてはわからない、楽しいスペースのはず。」まったく納得いかなかったものですから、山をつくって道を回したり、デッキをつくって高さを変えたり、銅のオブジェを置いたりいろいろ工夫しました。そして木々が育ってきて、だんだん歩かないと分からないような庭になっていきました、最初からこうしたレイアウトにしたわけではなく、感じた違和感を解決することで今のような庭になったのです。
内山 なるほど、感じた違和感を解決することが新しい物をつくり出すことにつながるのですね。
小山 はい。開店して半年後にお菓子教室を始めたのも、同じ理由です。本当は何年かしてからゆっくり始めたかったのです。でも絶対にすぐにやらなくてはと思ったのは、開店してから行列がずっとできるものですから、何か「売りにかかっているシェフ」だと思われるのが嫌だったのです。こいつは売れたらいいと思っていると思われているんじゃないかなって。私は、ゆっくりやりたかったのです。いいものをつくろうと思っているけれど、売れるものをつくろうとは思っていない。売ろう、売ろうとはあまり思っていないのです。そこで、お菓子教室を開いて、人のうわさなどではなくて、自分でお客様にしっかりとメッセージを投げられる場をつくりたい、自分の考えを伝えたいということになったのです。今では常時300人の生徒さんがいらっしゃって、とても良いコミュニケーションの場になっています。
内山 なるほど。本店を入ると左に見えるマルシェのコーナーも、開店してわずか1年で私どものスルーオーブンをお入れいただいたりして、随分とこだわって来られましたが。
小山 まだまだ課題はありますが、このコーナーは今、ものすごくいい感じです。焼きたてのいい香りがあり、目の前に発酵菓子とできたての袋に入っていない焼き菓子がドンと並ぶ。
ヒントをいただいたのは内山社長からでした。このマルシェで今までのお菓子店の悩みが解決できると思いました。内山社長にパリのマルシェの動画をお見せいただいて、すぐにやらなくてはならないことが見えたのです。ですから、ためらわずにスルーオーブンを導入しました。
タルトなどは香りが立って、あれだけ焼きたてのパフォーマンスをライブ感覚で見せることができます。お菓子店にはなくてはならないものなのですが、売れにくいとうのが職人の悩みどころです。やりたいけれどロ スが多くなる。置きたいけれど売れない。
パリのマルシェの映像を見せていただいた時に、その活気やライブ感にインパクトを覚えました。日本でも築地の市場の活気って凄いじゃないですか。タルトなどもここまではやってない。売れないから中途半端、ロスになることを考えるとなかなかできなかった。だったら、もう覚悟して、「マルシェに思いっきり並べよう」と思った時、初めて売れ出すのです。一線を越えるというのでしょうか、そんな感覚でした。あとで始めたマカロン&コンフィチュール専門店でもそうなのですが、一軒の店にしようとしたら4種類や5種類では店になりません。80種類並べているわけです。マルシェが教えてくれたことで、私は「co. & m.」ができたと思います。
内山 パリで開かれた「サロン・デュ・ショコラ・パリ」での「外国人部門最優秀ショコラティエ賞」おめでとうございます。2011年、2012年と2年連続で受賞されるのは日本人では、初めてのことだとうかがいました。フランス人を納得させるショコラをつくるポイントはどのような所にありますでしょうか。
小山 フランスで修業していないことにもポイントがあると思います。日々、日本の中でしか仕事をしていない。子供の時からのこと、日本のいろいろな場面を活かして日本人であること、日本で生活しているからこそ毎日起こることをインプットして、人のまねではない、自分で消化してアウトプットに変える、それこそが日本人唯一のオリジナリティだと思うのです。そこにフランスの人たちは驚くのです。
内山 ということは日本の素材で勝負されるということですか?
小山 違います。素材ではありません。たとえば私は忍者をモチーフにした漫画「NARUTO」が好きなのですが、それから想像して「忍者」という煙のチョコレートをつくったのです。つまり、いかに自由な発想でいろいろな種をお菓子に変える柔軟性があるかないかということなのです。その中にはミッションとして日本の素材を伝えなくてはならないということもちょっとあります。なぜなら、抹茶にしても、柚子にしても、ワサビにしても中途半端にフランスに伝わり、ちゃんと素材の良さが理解されていないから。
いずれにしても自由な発想を広げるためには”着目点”が大切です。”着目点”が豊富な人が絶対に面白い。たとえるなら漫才師。面白い人は面白いし、滑る人は滑り続ける。お菓子屋も同じです。
内山 なるほど、日本人としての発想の面白さなのですね。
小山 実は、「サロン・デュ・ショコラ」の関係で来日するフランス人シェフの間で「小山ロール」が評判になっています。さきほど私の日本人としての発想についてお話ししましたが、私の菓子作りの力を引き出してくれているのは、日本のいろいろなメーカーさんのおかげでもあります。たとえば「小山ロール」。日本のオーブンメーカーである七洋さんと、日本の職人である小山が生んだものだと思います。日本独特の食感である「ふんわりしっとり」をフランス人シェフもわかりかけてきています。彼らは今までこれをジェノワーズだと言っていたのです。
とくに小山ロールは最初から水分がたっぷり含まれているので、その水分を凝縮しながらどの程度まで抜いてオーブン外に出すかというのが大事です。湿度の低い冬と湿度の多い夏は、まったく違う。排気がものすごく大事で、特殊インバーターをつけたりしてずっと七洋さんと取組んで、完成された菓子なのです。結局フランス人はびっくりするような「ふんわりしっとり」を知らなかったのです。
内山 2月4日にショコラ専門の新ショップをオープンされましたが、これはどのようなコンセプトなのでしょうか。
小山 最初にお話ししたように、今まで私は、お客様のクレームや自分が感じる違和感を改善することで進んできました。しかし、今のショコラの店をつくって6年間で数多くのショコラのお菓子ができて、それを何とかお客様にご紹介する必要性がありました。これは今までの流れと変わりません。しかし、今回のショップはそれに加えて、「今の働く大人たちに、何か昔、子供のころ自由に発想していた頃のこと、すごく面白い事をいっぱい考えていた時の想いを掘り起こしてほしい」という意味で「掘り起こす」ことがコンセプトのお店をつくりたかったのです。ですから、「大人がものすごく真剣に作る秘密基地をつくろう。もっと面白いことやろうよ、堂々と子供に背中を見せようよ。」というショコラの店です。
そうすると今までショコラの店があったところが空きますから、そこに子供のための「駄菓子屋」をつくりたいと思っています。
内山 子供のための「駄菓子屋」ですか?
小山 はい、今度は世の中に対する違和感を感じるようになって来たのです。時代への違和感とも言えます。親がやらない、先生がやらない、地域がやらないから子供たちが得てないことがあると思います。子供と親、子供と大人が話す接点をもっともっと増やさなければならない。そのためには、大人が一切入れない店、ホームページであっても一切公開しない、子供しか知らない、子供に聞くしかない、子供はそこの美味しそうなお菓子を食べる。親も食べたいけれど子供に頼むしかない。親の頼まれごとを聞いて店へ行ったり、またそこであったことを親に話す。そんな親子のつながりをつくるような店ができたらと思います。私がやることなど、小さなことです。でも、少しでも姿勢が伝わったら、こういう姿勢を持つ方が世の中で増えて行けば、変わると思います。
内山 菓子屋という一つの業種が大人と子供の接点をつくるような店をつくるのが、小山社長のおっしゃる駄菓子屋ということですね。
小山 今年、エスコヤマは10周年を迎えます。お客様のおかげでやっと、ここまで来ることができました。みなさまに10年間でこうなりましたという形を11月13日までに残したいと思っています。
取材後記
取材
七洋製作所 代表取締役社長
内山 素行