“店の味”をつないでいく「継承」という挑戦
株式会社アントルメ菓樹

熊本県熊本市東区東野1丁目5-5

アントルメ菓樹

取締役会長/代表取締役

柴田 博信/柴田 悠貴 様

熊本県熊本市東区東野1丁目5-5

アントルメ菓樹

電話 096-368-2800

父の松月堂を引き継ぐ形で1991年に二代目の博信氏がアントルメ菓樹をスタート。以来、地元熊本の美しい自然がもたらす豊かな恵みの素材を使ってやさしいお菓子をつくり続け、熊本を代表する名店に。今年1月に三代目の悠貴氏に代表をバトンタッチし、さらに地域に密着した次のアントルメ菓樹に進む。

竹内 アントルメ菓樹様は今年の1月にご子息の悠貴様が代表になられたと伺いましたが、迷いや不安はありませんでしたか。
悠貴 代表になる時には迷いも不安もありませんでしたが、決心する前はずっときつかったですね。
私は大学を卒業してパティシエの修業は全くせずに実家にもどり、最初はカステラとバウムクーヘンを朝から晩までずっと焼いていました。実家が洋菓子店ですからパティシエの業界というのは大体そういうものだとうっすらとはわかっていましたが、労働時間は圧倒的に長いし、かといって給料が高いかと言ったらそうでもない。もちろんパティシエを目指している人にとっては技術を学べる大事な時間だと考えるのはよくわかります。しかし、私は特にケーキをつくりたいなと思っていたわけでもありませんし、爺ちゃんからの思いを継ぐ店だから実家をどうにかしなくちゃいかんと思って帰って来たのですが、実際に仕事をしてみると実態は私の認識とは随分と違っていました。
これじゃダメだろうなと思って、スタッフの働きやすい環境づくりのために動いてはみたのですが、お店には歴史もあるし、みんな職人ですから、そう簡単にはうまくいかないのです。さらに私にはケーキをつくる技術もなくて、だからそこでずっと苦しんでいました。
博信 私も父から店を受け継ぎました。松月堂という和洋菓子店です。フランス菓子を学んで実家に帰った私は、父のつくる菓子が古臭く感じていろいろなことに反発しました。
しかし、お店でお客様とお話しするうちに自分の驕りに気づかされ、心から父の菓子を認めるようになりました。それからは父と共に働き、やがて父は30年自分で育てた松月堂の看板を下ろし、私にアントルメ菓樹を託してくれました。それに応えるためにも30年間休む暇もなく、がむしゃらに働いてきました。
しかし、時代は働き方改革で大きく方向転換しましたね。もうがむしゃらに働くというような職人の意識は通用しなくなりました。スタッフには休みが必要ですし、仕事は早く終わらなくてはいけないし、さらに給料を下げてはいけません。こうしたことを実行しながらおいしい菓子をつくり続けるには経営感覚が必要です。私のような職人は急に感覚を切り替えることはとても難しい。だから私は白衣を脱ぐことにしたのです。  息子は職人じゃないですから、違う視点からしっかりした自分の考えで、一度にできなくても徐々に改革してくれるでしょう。

竹内 アントルメ菓樹様の味の継承についてはどのようにお考えですか。
悠貴 父は製造も販売も商品開発も一人でできますが、私は何もできないわけです。修業からやり直そうかと最初の時期はすごく考えたこともありましたが、やり方は違ってもいいかなと思って。いろんな人を頼りながらスタッフと協力してやると、いろいろと新しいアイディアが出てきます。
でも、試作した菓子が菓樹の味じゃない時がたくさんあります。それを菓樹の味にできるのはやはり父しかいません。惜しいところまで来ているのですが菓樹の味じゃない。父が配合を出すとやっぱり菓樹の味になるのです。だからそれが何なのかを勉強中です。
舌だと思うのですが、そこをちゃんと完成させるまでは父の完全引退はありません。
博信 100%任せているかというとそうでもないところはあります。今までのアントルメ菓樹の味だけはしっかりと覚えさせなくてはいけない。だからいつも言うのですが、「職人は技術というのは腕ではなくて口だよ。味をしっかりと覚えなさい、食べなさい。」と。スタッフの1年生と3年生なら、3年間食べ続けたスタッフの方は一発で菓樹の味がわかるようになります。
竹内 ぜひ、お店の味をつないでいくお役に立ちたいと思います。
悠貴 長い間、アントルメ菓樹はバッケンを使わせていただいています。私が幼稚園から帰ってきて、ただいまって言って厨房に入ると、バッケンの窯の前で爺ちゃんがカステラを焼いているのが思い出の風景で、今でも覚えています。父はバッケンと一緒に成長したようなものですし、私もカステラを焼いていました。
いろいろなオーブンがありますが、やっぱりうちのパティシエたちはみんな平窯のバッケンでやりたいですと言います。アントルメ菓樹の焼きの根幹をつくるのは、これからもずっとバッケンなんだなと思います。

材後記

七洋製作所 本社営業部長
竹内 浩

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