25年間、フランス菓子16区を
成長させ続けたのは、
"不屈の努力"と"変わらない気持ち"です。

福岡県福岡市

フランス菓子16区

代表取締役社長

三嶋 隆夫 様 様

福岡県福岡市

フランス菓子16区

電話 092-531-3011

内山  創業25周年、おめでとうございます。10月24日で、ちょうど25年が経つとうかがいました。ひとくちに25年といっても、これまでにはたくさんのご苦労がおありになったと思いますが、4分の1世紀という長い時間を振り返られていかがでしょうか。

三嶋  本当に早いものですね。よく25年も経ったなと思います。店をやる前は、25年なんて言うのはとても想像つかない長さでした。目の前のことにひとつひとつ一生懸命に取り組んでいたら、あっという間に25年が経っていました。今から思うと、こんなに早いものかと思います。

内山  独立されたのは、確か37歳のときでしたでしょうか。

三嶋  はい、37歳です。そして、今は62歳になりました。

内山  いろいろなことがおありになったと思いますが、一店舗を守り、25年間、一度も売り上げを落とさず成長の経営をしてこられた。このことはとても凄いことだと思います。

三嶋  自分の目の届く中でパティシエとしての喜びと誇りを感じながらやりたい、その為私のやり方では一店舗に全力投球しようということです。20周年を迎えるまでは売り上げのことは気にしていなかったんですが、「一店舗のままで、20年間、売り上げをずっと伸ばし続けるのは凄いですね。」とたくさんの方々から言われて、自分でもなるほど確かにそうだな、と初めて自分の足跡を振り返りました。それまでは夢中でした。でもそれからは売り上げが気になって仕方ありません。(笑)

内山  今の売り上げはどのくらいでしょうか。

三嶋  6億3千万円ちょっとですね。

内山  凄いですね。私どものお客様の中にも他にはいらっしゃいませんが、一店舗だけの販売で、6億円以上をお売りになっているお店は、日本中探しても16区様以外にはないと思います。もう15年も前になりますが、ちょうどこの場所で取材させて頂き、お話をお伺いいたしましたけれど、当時の売り上げは3億4-5千万円とおっしゃられました。15年間で2倍近く伸びてこられた一番の原動力は何なのでしょうか。ぜひ、お教えいただきたいのですが。

三嶋  特別なものなど、何もないですよ。「16区の味」を作り上げ、常に磨き、そして、続けてきたということ。ただそれだけです。僕の中では味を組み立てる重要な要素は”素材”と”鮮度”そしていつまでも変わらない”心と努力”しかありません、絶対に妥協しません。昔、私がパリで修行していたころ、ムッシュ・エルグアルシュに、味は”素材”と”鮮度”と”技術”だとよく教えられました。”技術”とは努力のことです。そして、”素材”と”鮮度”は、品質の良い素材を選び、さらに、その”新鮮さの度合い”にとことんこだわる、と言う事です。私は、このことを自分の中で解釈して、「16区の味」=「三嶋の味」を作ってきたつもりです。

内山  なるほど、”素材”の良し悪しに加えて、”新鮮さの度合い”ですか。

三嶋  以前、私とスタッフ二人で、うちが使わせていただいているパッションフルーツの生産者の方を訪ねて奄美大島まで行ってきました。お作りになっているのは若い30代半ばのご夫婦で、旦那様と奥様とが一緒になって、本当に一生懸命やっていらっしゃいました。「私たちのつくるパッションフルーツは、どなたが召し上がっているのか、どこで売られているのか、美味しいと喜ばれているのかどうか、まったくわからない。」「だから、私たちのパッションを使ってくださっている方々がこんな遠い奄美大島までわざわざ来てくれて、『美味しいのを作ってください。』と言われたら涙が出ます。」とおっしゃっていただきました。さらに、「私たちの作るパッションを使っていただいている方に初めてお会いできた!」と感激されました。

とにかくお二人のお作りになるパッションフルーツは絶品です。大げさな言い方ですが、お二人の”生きざま”がそのまま味になった気さえします。お会いできて、「なるほど、このご夫婦がつくるものなら納得できる。」と私もスタッフも感動して戻りました。今年も6月頃からパッションの入荷が始まったので、さっそくパッションのシフォンやゼリー、アイスクリームなどを作ってお二人に送らせていただきました。

もう、たいへん喜んでいただいて、「自分たちが作っているパッションがこんなに美味しいものに形を変えるなんて!」とすぐさまご連絡を頂戴しました。パッションフルーツに込められたご夫婦の気持ちに、われわれ16区全員の気持ちを加えて、お菓子に心を込め作り上げる。”素材”と”鮮度”を追求して行くということには、このようなことなのかもしれません。かるく言う”鮮度”ではなく、さらに深く、もっと深く。「味」へのこだわりはこうしたところにあると、私はそう思って努力してきました。

内山  厳選した素材の良さと鮮度を「16区の味」に反映させるために、16区様は直接産地と契約されていますが、どの生産者の方とも素材のやり取りだけではなく、このような心のやり取りがおありになるのですね。

三嶋  はい。ブルーベリー、サンギーヌ、イチゴ、イチジク、栗など、たくさんの生産者の方々にたいへんお世話になっております。本当に感謝しています。

内山  「16区の味」作りに「焼き」も重要な要素かと思います。初めてこちらにおじゃましてから、何度も何度もムッシュにアドバイスしていただき、やっとバッケンもここまで来ました。本当にありがとうございました。バッケンは「16区の味」作りにお役に立っていますでしょうか。

三嶋  もちろん。そういえば「ここをこうしてくれ。」「ここはもっと高くしてくれ。」とか、よくお願いしていましたね。そのたびごとに七洋さんはいつもちゃんと対応してくれました。あなたも若い頃からうちに通って来て、本当によくがんばってきましたね。パッションフルーツが奄美大島のご夫婦の”生きざま”なら、バッケンはまさにあなたの”生きざま”そのものですね。15年前にこの部屋で取材を受けたこともはっきりと覚えています。あの日は素晴らしい快晴だった。ここから見える空が気持ちのいい色だったですね。

内山  ありがとうございます。私もはっきりと覚えております。

三嶋  そうそう、「焼き」の話でしたね。やっぱり、バッケンにしても南蛮窯にしても、カチッとしていますよ。機械として、本当の機械らしいオーブンです。「焼き」に対して誠実なオーブンです。言い尽くされたことですが、密閉度がいいと言う事が一番ですね。しかも、ダンパーからの抜けが素晴らしい。たとえばスフレなどは湯煎で焼くのだけれど、ダンパーを抜いておかないと浮きが悪いですね。あれだけ湿度があっても、きちんと抜ける。密閉度がいいから、「浮かす」、「抜く」がきれいにコントロールできる窯ですね。その点では、パッションフルーツのシフォンを10月から店に出しますが、あれも、あのオーブンだから美味しく焼けるのです。きちんと生地が上がってくれ、徐々に焼けて行く。これをオーブンの中でそのままにしているとペシャンとへたり込みますが、その前にいいタイミングで抜いてやると一気に抜けるので、カチッとしたシフォンが焼きあがります。

内山  バッケンは密閉性がいいので、ダンパーの使い方がポイントになりますね。

三嶋  その通り。強制ダンパーも装備しているのも、とても焼きやすいですね。

内山  15年前、取材させていただきました時に、ちょうど3段のバッケンを入れていただきましたが、昨年、その3段のバッケンを4段に入れ替えて頂きました。3段から4段に変わり、たった2口ですけれど、増えたことによってどのように変わりましたでしょうか。

三嶋  もう、ダックワーズの仕事のまわし方がまったく違います。うちはダックワーズがよく出ますから、窯を4段にしたのはダックワーズのためなのです。窯が間に合わなくて、焼いてないのがどんどん溜まってしまう。ですからエレベーターで3階に上げて、3階の窯で焼くのですが、上は上で別の仕事をしているわけですから、そのたびごとに仕事が中断してしまいます。たった10分間の中断であっても、効率からすれば30分以上のロスになってしまう。それをずっとやっていたわけです。それが、4段にしたおかげで今は2階だけで間に合うようになりました。作業時間が最低2時間は違います。おかげさまで、今、たくさんのお客様のためにたくさんの「16区の味」を作らせていただいています。バッケンの効率化も”素材”と”鮮度”を守り、極めて行くには重要なことなのです。建物の面積が決まっていますから、いろいろな部分を効率化していかなくてはなりません。3段から4段へ、バッケンは「焼き」のクオリティーだけでなく「焼き」の効率化でも大変役立っています。

内山  私どもがお取引させて頂いているお店で、一店舗で6億円を超えているのは、16区さんだけですが、年商5千万円のお店、年商1億円のお店、年商2億円のお店、年商3億円のお店、それぞれどのようなことを考えてやっていけばいいのでしょうか。ムッシュのお考えを参考にさせていただきたいのですが。

三嶋  難しい質問ですね。最近、年商5千万円から1億円の店が増えてきましたが、2億円くらいまでは”夢中”で仕事をするべきだと思います。それだけでいい、考える必要はありません。ただ、ひたすらひたすら美味しいものをつくること。ところが1億円から1億5千万円くらいになると、”戦略”というものを意識し始めて”夢中”が薄らいできます。そして、パッケージを含めたイメージ作りに気を取られ始めます。成功して2億-2億5千万円、あるいは3億円に近づくかも知れません。しかし、それがずっと続くかというと、必ず何かに突き当たって突破できなくなるような気がします。

内山  なるほど、”夢中で”ですね。それでは3億に近づいてきたらどのようなことを考えてやっていけばいいのでしょうか。

三嶋  3億が近づいてきても、もちろん”夢中”でやらなくてはいけませんが、さらに考えなくてはならないのが従業員のこと、そして衛生管理ですね。大きくなればなるほど目が届きにくい要素です。以前の店は衛生管理できなかった。11坪の仕事場で3億円売り上げていたから、もうむちゃくちゃになってしまいました。ですから今の新しい店舗ではやれる限り衛生管理に力を入れてきたのです。今、3-4億円売っているお店が、どれくらい衛生管理に力を入れているかということが重要です。パッケージ開発やイメージ戦略が成功してどんどん売り上げが上がると、数字に目が行き、現場では製造が追いつかなくなって作ることばかりに気をとられがちです。そんな時事故が起こる危険性があると思います。4億円こえて、5億円くらいになってくると、従業員の管理も衛生の管理も、もう、すべてがビシッとしていないととてもやれません。菓子屋の完全形を自分なりに考えなくてはなりません。

内山  なるほど、参考になります。ところで、以前から頭が下がる思いで拝見していることがございます。それは、ムッシュが伊勢丹や岩田屋のような百貨店で実演販売をされる時に、食事もされないでずっと催事場に立って仕事してらっしゃることです。16区の社長で、福岡の洋菓子協会の会長で、超一流のパティシエで、60歳を過ぎていらっしゃるにもかかわらず現場で仕事をされる。どうしてそこまでおやりになるのでしょうか。

三嶋  多くの方々から、一店舗の売り上げが年間6億円を超えることを凄いとおっしゃっていただくのですが、私は一年の間に6億円以上もお菓子をお買上げいただいているお客様がいらっしゃることに対して、身の引き締まる思いがします。お菓子を”売っている”のではなく”買っていただいている”。同じことなのですがわたしにとってはまったく違うことなのです。デパートの方々に16区の実演販売をやってくれないかとお願いされるのは、ただ、16区のお菓子を作って売って欲しいのではなく、そこに私がいて実演することを期待していただいているわけです。お客様もそうでしょう。せっかく催事におこしいただいて、私がいるのといないとではまったく違う。デパートの小さなスペースで仕事を組むのは厨房で仕事をする何倍も難しい。でも、「16区の味」を買っていただくお客様を大切にしたいのです。たとえ買っていただいてなくても、”まわり”の人を大切にしたいのです。店が成長しても、”夢中”でやっていた頃の気持ちを忘れないようにしたいと思うからです。

内山  ムッシュは毎朝8時15分には必ず出社されて、いつもいちばん最後までお店にいらっしゃいます。体力にはまだ自信があるとおっしゃっておられますが、お幾つまでおやりになられるおつもりですか。

三嶋  まだまだ、がんばりますよ。私は、いまだ仕事がきついと思ったことがない。70歳まではまったく問題なくやれると思います。このごろ後継者のことについて聞かれるようになりました。誰でもそうなのですが、私、三嶋隆夫がやっている16区というのは、私がいなくなったら私の16区は終わります。ハード、つまり店は継承できるけれども、ソフトは人そのものであり、継承できるものではありません。自分が引退を決めているのは、コックコートを着て現場に立って、かっこ悪くなったらやめようと思っています。仕事ができなくなったらコックコートは似合わない。そのときが来たら…。

内山  まだまだそんなお話をお伺いする時期ではありません。これからもバリバリとがんばって頂き、私たちをご指導して頂きたく存じます。今日は、お忙しい中ありがとうございました。これからも16区様に期待いたしております。

材後記

株)七洋製作所  代表取締役社長
内山 素行

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