Vol.23
独立を目指す人達に

独立を目指す人達に

多くのお店を歩いていると、そのお店で一生懸命働いている、若いパティシエの方々と沢山出会います。洋菓子専門店で働く多くの方々は、将来自分のお店をもたれる事が、大きな夢となっていると思います。しかし、独立イコールすぐに夢の実現なのだろうかと思うときがあります。自分の理想のお店を実現させる為には、多くの資金と、自分の菓子に対する完成度、そして自分自身の右腕になってくれるスタッフの養成など、この様なこと考えていくと、絶対に「独立した時すぐから、夢の実現は無理である。」と気づく事が独立の第一ステップのような気がします。

第二ステップは独立してから、夢<理想の店>を実現させる為に、いかに資金を貯めるか、資金を貯める為には絶対に作った菓子が売れなければいけません。
菓子が売れるという事は、菓子を作るという次元とは違うサイクルで動いている事も事実です。往々にして修行中のパティシエの方々は、菓子を作る事は一生懸命勉強されますが、売る事は、「美味しい菓子を出せば売れるのでは」という風に非常にあいまいに考えている所があるような気が致します。
どんな美味しいお菓子でも、売れなければ老化して味が落ちる。この原理原則の難しさをいかに克服するかが勝負の分かれ目です。

オープンして1~2年はとにかくがむしゃらに働かれます。本当に寝る間もおしんで働かれます。いろいろな店舗の見学をした方が良いだとか、確かに解ってはいるのですが、菓子を作るだけで精一杯で、自分自身の余裕が全くないないのも現実です。しかしここの処が市場とのズレの始まりである事も見逃せません。
独立する時につかんでいた、現在の流れ(トレンド)が非常に早いサイクルで変化していき、新しいと思っていた自分自身の感性がいつのまにか古い感覚になってしまい、その事に気づくときは、何故か売上げが伸びないという、数字の現実に直面した時、初めて気づかれる方が多い事も事実です。

私は今、福岡発名古屋行きの飛行機の中ですが、2泊3日の予定で、名古屋から東京に行き、そして神戸によって帰ると言う行程の中で、約7軒の専門店を回ります。又、色々な菓子屋さん以外のショップも見学します。これを1ヶ月の中で約二十日間動き、20年間やっていますが、それくらい動いていても油断していると、時代の変化を取り逃がしている事が良くあります。絶えず問題意識を持ち続ける事が非常に大切な事であると思っております。
そんな中で感じる事は、ごく最近、洋菓子の販売の考え方が、少しずつ変化してきたということです。生ケーキの表現方法と、平台の上に量感で焼き菓子を盛るやり方から、しぼりこみの焼き菓子販売へと変化しています。

独立は夢の実現ではない、夢を実現する為の手段である。

こんな言葉が御座います。「独立は夢の実現ではない、夢を実現する為の手段である。」短い言葉ですが、この言葉は非常に奥深さを感じます。又この言葉を本当に理解して独立される方は必ず成功され、自分の夢を実現されるパティシエではないかと思います。
そんな事を考えていくと、あまり若い時期の独立は色々な意味でリスクが多いことも知っておくべきではないかと思います。私が思いますにこれは人によって異なりはしますが35歳以降からの独立が良いような気が致します。(私の知る限り)人間ジャンプする時には、深くかがみます。このかがみが深ければ深いほど、又足腰の筋力が強ければ強いほど、大きくジャンプできるものだと思います。

今独立を目指して、一生懸命修行している方々に贈る言葉は、この時期は大きくジャンプする為に一生懸命かがむ時であると言う事です。そう思えばどんなに辛い時でも、自分の為だと思い、その気持ちがあれば、それを糧に出来る自分が出来あがります。これは夢の実現への第1歩だと思います。「念すれば夢かなう」この精神で頑張って下さい。

(このブログはNANBANプレス19号に掲載されたコラムを再編集したものです。)

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