
福島県いわき市
菓匠 梅月
電話 0246-82-2020
- 震災前に店があったところには何もない
- 7時30分開店で午後2:00には閉店
- 一日何千個も販売する柏餅
内山 この地域も東日本大震災では、大変な被害にみまわれました。みなさまがこうして頑張っておられる姿を拝見すると、身も心も引き締まる思いがします。津波に流されて何もかも失くされたと伺いました。それでもよく、再び「店を出そう」とご決心されたと思います。どうして、もう一度お店を始められたのでしょうか。
片寄 地震で土地は崩れ、津波に襲われ、それでも残っていた家屋は火災で全焼してしまいました。地域の50軒が燃え、私には免許証と携帯電話だけが手元に残りました。地震で水道管が壊れてしまっている状況では水を使えません。消防は機能しませんでした。消火できないまま、ただ店は燃え続けました。
7年前にこの店を継いでいた息子が突然他界し、隠居していた私は、また菓子屋を始めたのです。一生懸命に店を盛り立ててきました。そんな時にこの震災です。もう、何もかもどうでもよく、絶望というのはこういうことかと知りました。
内山 それでも、また、始められました。
片寄 はい、地域のみなさんから、「どうしても梅月堂を再建してくれ」という声をたくさんいただいたのです。明治24年にこの地に創業して、私どもの店がこんなにも地域のみなさんの生活の中に溶けこみ愛されていたのかと思うと、何とかしてやってみようと思うようになりました。
内山 しかし……。たいへん失礼ですがご主人はおいくつでいらっしゃいますか。
片寄 昭和5年生まれの82歳です。
内山 何もかも無くなってしまって、しかもご高齢で。よく、決断されましたね。
片寄 全部無くしたわけではありません。地域のみなさんの”心”がちゃんと残っている。迷わず決断できました。じゃあ、どうせやるのなら3月11日にやろう、震災一年後の開店を目指しました。そう決めてから、また一生懸命の毎日が続きました。しかし、震災を受けた地域にはいろいろなことに不便があり、私の年齢の壁もあって、何度も「やめようか」と思う時期もありました。そうした時に、物心ともにたくさんの方々から助けられました。この機械も東京の大森にある和菓子屋さんから、「これ使ってください」とご手配いただきました。七洋さんからもたくさんご助力いただきました。ありがとう、感謝しています。
内山 とんでもございません。ご主人やスタッフの方々の頑張る姿を拝見すると、私にも勇気が湧いてきました。
ところで、こちらでは柏餅が良く売れていますが。
片寄 はい、メインは柏餅です。7時30分から始めて2時で終わる。閉店だいたい13時30分まで持つように作ります。一日、何千個も作ります。土、日曜日には震災に合って自宅へ帰れず、仮設で生活をされている方たちがたくさん来ていただいています。
- 菓匠 梅月銘菓「波立」
- “不屈”の文字が刻まれたバッケン
- 梅月は大きな声と笑い声がたえない
内山 お店には、柏餅をいれてわずか3品の品揃えですが……。
片寄 以前の店では、もっともっとたくさんの種類を販売していました。しかし、全部レシピが流されて一切なくなってしまったのです。幸いにしてこの菓子はレシピを覚えておりましたので大事に再現してみて、ようやく銘菓「波立(はったち)」がもう一度販売できるようになったのです。
「波立(はったち)」「こういう形をした岩の島が近くの海岸沿いにあるのです。その島をイメージして作った乳菓で、この地域を代表する自慢の菓子です。そぼろが荒々しい岩を、抹茶が海藻を表現しいます。これをバッケンで焼いています。オーブンには”不屈”の文字を刻み、”再開の志”を常に胸に確かめています。
内山 それにしてもこのような厳しい環境の中では、大変な集中力が必要かと思います。そして、継続力。立ち止まってしまうことも、おありなのではないでしょうか。
片寄 そうですね。しかし、やはり人間は仕事が生き甲斐です。みんな精神的にはまいっていますが、仕事をしていればそういったことも忘れています。働かなければ気持ちも滅入ってきます。震災に合って小さくなっているのではなくて、できることからやって行かないとね。そうすれば体も丈夫になるし。
それから、やっぱりお菓子づくりが好きなのでしょうね。そして、お客様にいかにして喜んでいただくかがとても大切なのです。「おたくのお菓子を食べたかった。一年間待っていて良かった」 と言われた時には、再開して良かったと心から満足できました。 私には孫がおります。今、24歳ですが大学を出てからお菓子屋の見習いに行っていて、「菓子屋をどうしてもやりたい」と申しております。これからは孫の帰りを待って、帰ってきたら孫が学んできた菓子を出せばいいと思っています。それまで、まだまだ現役です。
取材後記

取材
(株)七洋製作所 専務取締役
内山 毅一