東京都葛飾区柴又
お菓子屋ビスキュイ
電話 03-5668-8870
駒水 今年、七洋さんの新しくできる折りパイの新工場を見学させていただきましたが、徹底的に衛生管理されたスペースに大型の機械が何台もならんでいて、「こんなに本気でやるんだ!」ってとても驚きました。意気込みが凄く伝わって来て、見ても真似できるレベルではないですね。
七洋さんは冷凍生地は外注で製造して、それを七洋ブランドで販売しているんじゃないかとお思いの方もいらっしゃるかも知れませんが、とんでもない、自社工場でしっかりとつくっておられます。こうした〝本気の冷凍生地づくり〟はユーザーの方にもご紹介すべきだと思うのです。
高橋 ありがとうございます。もともと弊社の冷凍生地事業は、南蛮窯やバッケンのユーザー様が手間なく販売品数を増やせるようフォローする目的で始めましたので、今までは工場を積極的にご紹介することもありませんでした。今回の折りパイの新工場稼働をきっかけにユーザーの皆さまに20年近くに渡る七洋の冷凍生地づくりと、さらに新たな折りパイへの取り組みをご認識いただければと思います。
駒水 私はバッケンやZENを通して七洋さんの焼成に対する本気度を知っていますから、今度は折りパイを本気で突き詰めてつくったら、どれほどの物が出来上がっていくのか期待感があるのと同時に「怖い」というのもあります。日本全国の菓子のお店を回って生きた情報をたくさん集めて、そこに本気で投資をしてものづくりをすれば、私よりもおいしい物ができるのではないかとさえ思います。
高橋 私どもが折りパイの新工場を稼働させる理由は、菓子業界に今までに経験したことのない大きな転換期を感じるからなのです。
菓子業界の人手不足は慢性的な課題としてありましたが、さらに働き方改革が進む中で環境の変化はうねりになって菓子店を巻き込み始めました。
何とか皆さまのこうした厳しい状況を発展的に解決する方法はないのかと考え、折りパイの新工場を稼働させ、皆さまのお店の配合でOEM生産することを決めました。
駒水 確かに、自分の折るパイ生地と同じレベルの物が手に入るのは凄く助かりますね。だけど抵抗したい部分はあるんですよね。それは僕らのやる仕事だよって。
でも、今から10年後を考えると、はたして若い子たちがどこまでいるのか?
どこまで自分の体がきつくなってくるのか? 先のことはもちろんわかりませんから、何か用意できる事はしておかなくてはいけません。
外注すれば原価が高くなって利益は薄くなります。だから、なるべく自分たちでつくろうとするのですが手間がかかってなかなかできなくなる。
高橋 本当に私どもがビスキュイさんに代わって同じ品質のパイ生地が提供できたら導入されますか?
駒水 それができるんだったらOEMをお願いすると思います。今は職人の変に小さなプライドがまだあるんですが、同じ物が私たち規模のロットでも製造できますというのであれば、無理してまで自分でつくりきろうとは思いませんし、もうそうした時代が近づいてきているんだろうなって自分の中でも感じます。
長い七洋さんとのお付き合いですから、弊社のレシピをお渡してOEMをつくっていただいても安心です。
最初から最後までやっぱりつくりたいという職人育ちの感覚が働いてしまうのがダメなんだろうなと言う事は、ここ何年間でもうわかっています。
このような半製品や機械を上手に使いながら、生産性を上げていく必要があるのです。今から環境の変化とすり合わせなくてはなりません。
高橋 今回上5段、下10段の「スチームラックオーブンZEN」をご導入いただきましたが、これもそのすり合わせのひとつでしょうか。
駒水 はい。今まで使っていたコンベクションオーブンはラックが回転しなかったので、ムラ焼けしないように鉄板を差し替えるのですが、繁忙時になると何百枚と焼きますから、何十回戦全部差し替えていると一日で1時間は差し替えている時間になってしまい結局大きなロスなのです。
「スチームラックオーブンZEN」はラックが回りますから差し替えの必要がなく、時短につながりムラ火も少なく製品も良くなりました。
上5段、下10段に分かれていますから、少ない量の焼き物にも瞬時に対応できて作業の流れがスムーズです。
高橋 ビスキュイ様には「バッケンカッター」もお使いいただいておりますが。
駒水 そうですね。しかし、こうしたカットマシンがあると知った時には、「職人は手で切ればいいんだよ!」というのが第一声でした。
ちょうどその頃、仕事が十分にできないスタッフもいて、「きっとこんなスタッフが増えるんだろうな……。」と思うと、機械にできる仕事は機械に任せるべきだと思ったのです。「バッケンカッター」は失敗のないカットのプロを雇った感じです。このように品質の高い半製品や機械を導入することは、新たな時間を生み出すことができます。
この時間をパティシエにしかできない技術を磨き、菓子に付加価値をのせていくことが、専門店の生き残っていく道なのだと思います。
私たちの仕事はスタッフがいないとできないチーム作業です。スタッフに「ありがとう!」という気持ちを持たないとできません。今のスタッフ達は職場の雰囲気を大切にしますから、チームワークを大事にしてみんなで同じ方を向いてやれたらいいと思います。そのためには、私が時代にちゃんとついて行かなければなりませんね。
取材後記
取材
七洋製作所 東京支店長
高橋 宏之