「作りたてに勝るものなし」
株式会社たねや様の会長山本徳次様がお亡くなりになられました。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
私が故山本会長と初めてお会いしたのは今から27年前の雑誌の取材で対談させていただきました。その印象があまりに衝撃的で鮮明に残っております。
山本「葛切リという菓子がありますね。あの菓子が一番美味しいのはどのタイミングだと思いますか?実は一番うまいのは葛切りの出来立てを包丁で細くところ天状に切り、黒蜜をかけて食べることが一番美味しさを感じる瞬間です。その一番うまい出来立てを最初に食べられるのはそれを作った職人なんです。そこをどうしたら職人と同じ様にお客様に食べていただけるか、このことに試行錯誤を繰り返しました。長方形の容器を作りそれに素材を注入して、ところ天状になるように出口を網目にしました。お客様が食べる時にご自身で突き棒でところ天のように突いていただき黒蜜をかける、これをパッケージ化して販売しました。これはとても高評価をいただきました。今後はいかにお客様に鮮度を感じて食べていただくかだと思います。」いとも簡単に故山本会長は話されましたが、27年前にこの様な考えを実行されていることに物事の考えの深さと洞察力を感じずにはいられません。全ての商品づくリはお客様側に立って考え抜くことこそが重要であると感じます。
鮮度の演出
食べ物にとって製品の鮮度は最も重要なことですが、出来立て感をお客様が感じることが必要なことだと思います。そして、ここに専門店が生き残る大きな術があると思います。大手量販店ができないことを考え抜いてみると店主がお客様に挨拶をすることは専門店だからこそできる鮮度と信頼の演出であることは間違いありません。実践されてみては如何でしょうか。
南蛮粉
私は南蛮窯をトラックに載せてカステラを焼成することで南蛮窯を広めていきました。南蛮窯はカステラを焼成する工程をタイマーで記憶させ、泡切のタイミングや灰鉄板を乗せる頃合いを教えてくれるシステムでした。しかし、最近では急激な人手不足により、泡切や灰鉄板を乗せる作業に手間がかかる為、カステラは焼いていないというお客様が増えたことに大変危惧をしておリました。何故ならカステラほど素晴らしい焼き物はなく、沢山ある焼き子の中でも、大きなジャンルであることは事実ですし、世界中の焼き菓子の中でも、焼成の難易度が高く、何もナッペせずスポンジだけを食べさせるその奥深さは、まさに日本を代表する焼き菓子だと思います。そこで、弊社のテクニカルスタッフが総力を挙げてカステラの粉の開発を考えていきました。
それがカステラミックス粉「南蛮粉」です。泡切も灰鉄板もかぶせる必要はありません。ミキシング後スチームラックオーブンZENに入れたままで焼き上げます。
今年のモバックショウやフーマでお披露目いたしましたが、とても大きな反響を得ることが出来ました。先ほどの鮮度の演出という言葉があリましたが、弊社がお客様に対して続けていかなければいけないことは、人手不足の中でもお客様がどうしたら菓子を作り続けていくことができるか、それにはオーブンだけの観念にとらわれず、その前段階から考えていくことが重要な課題だと考えておリます。
これは故山本会長から教えていただいたことだと感じております。専門店にとって厳しい環境ではあリますが、ここを切リ抜ければ素晴らしい未来があると信じて皆様方のご健闘をお祈リいたします。
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創業以来35年間販売する“甲陽園の陽子さん”
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常識外れの生地を
「スーパーバッケン」が火抜け良く焼き上げる。
まさにツマガリワールド
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表も裏も同じ焼き色
内山 この度は「スーパーバッケン」をご導入いただき大変ありがとうございます。お使いいただいていかがでしょうか。
津曲 ロールも、スフレチーズも、フィナンシェもすべて最高ですね。「スーパーバッケン」は火力が強くて下火が安定しているので、生地の火抜けが良くて浮きも上がっています。それに加えて焼成時間が短くなっていますね。
内山 お褒めいただきありがとうございます。もう少し具体的にお教えいただけますでしょうか。
津曲 そうですね、「スーパーバッケン」が一番実力を発揮している菓子を紹介しましょう。私どもに「甲陽園の陽子さん」という創業から35年ずっと販売している一番人気の焼き菓子があります。ファンのお客様が多く、毎日1000個、多い時には1500個くらいつくることもあります。このお菓子がぐっと良くなりました。
しかし、このお菓子は単純なのですがとても難しいのです。
内山 難しいとおっしゃいますと。
津曲 このお菓子はただのブッセのようですが、小麦粉を入れませんからただのブッセではありません。しかもメレンゲに生クリームを混ぜるという常識外れのとても危険な生地なのです。メレンゲの生地に生クリームを混ぜたら生地が死にますからフランス菓子ではこのようなことはしませんし、この配合はどこにもありません。
ポイントは生地の合わせ方と、良い卵白を使うこと。この生地の硬さで大きさを均等に高く絞るっていうのも簡単そうに見えてなかなか難しいのですが、もうずっとやっていますから体が覚えています。これが技術ですね。
内山 ということは、焼成にもレベルが必要なのですね。
津曲 もちろんです。上火200℃、下火165℃で19分、気密性の高い「バッケン」だからこそ焼けるのですが、驚いたことに入れ替えた「スーパーバッケン」で焼くと16分から17分くらいで焼けるようになって1分半くらい焼成時間が短縮されたのです。中は蒸すが如くふんわりと、外側には香ばしい焼きの味付けをしてくれます。これこそ火抜けの良い生地のおいしさです。鼻から抜けるアーモンドの香りはエッセンスなし、素材が持っている香りのみ。いい焼成は最高の香りを出します。
やっぱり下火がいいですね。安定して火が入っています。この焼き上がりを見てください、綺麗でしょう。表も裏も同じ焼き色です。上火200℃と下火165℃で表裏が同じ焼き色に上がるのは温度のバランスがピタリと決まっているわけです。真ん中も端も全く焼きムラがありません。
ここにサンドするプラリネクリームは、ローストしたアーモンド、ヘーゼルナッツ、砂糖でつくるプラリネペーストにバターを合わせますが、生地の存在感にクリームが負けないようにバターには空気を入れずに風味を強くしています。濃厚なクリームが生地のおいしさを何倍も楽しませてくれます。
焼成時間が短縮できて品質も上がる。これを見ると固定窯にとって下火の安定がどれほど大切かを教えてくれますね。もう七洋さんの「スーパーバッケン」は群を抜いてきましたね。
内山 ありがとうございます。
津曲 それから「スーパーバッケン」は、フィナンシェなどを高温で焼いた後、〝下火リセット〟を押すと下火がすっと下がりますから、すぐにロールのシートが焼けます。下火の温度を下げるために冷えた鉄板を入れたりする必要がありませんし、もう、時代はそんな無駄な時間を待っていられませんよね。
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「スーパーバッケン」に替えて焼成時間が短縮
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「スーパーバッケン」の前で対談
内山 ところで、洋菓子専門店様は今から真剣に焼き菓子に取り組まなければ、本当にもう人を雇用できないのではないかと思うのですが。
津曲 焼き菓子が売れないと労働環境は良くなりません。社員の給料やボーナスも上げられるようにいつも考えています。何のために会社があるのかというのを考えた時に、社員の犠牲の上に菓子屋があってはいけません。
内山 ただ、焼き菓子をやれば何事も上手く行くわけではありません。専門店としての香りや味、そして食感を深く追求し続けなくては。そのために私どもは「スーパーバッケン」を開発しました。
津曲 その通りですね。スーパーやコンビニにも焼き菓子やケーキが溢れています。日本の有名パティシエが監修した菓子がTVで宣伝されたりしていますが、専門店の菓子がそれと同じレベルならもう必要ないわけです。
もうずいぶん前になってしまいますが、私は店を開く時に将来は焼き菓子の売り上げを最低でも90%、生ケーキを10%の会社にしないと食べてはいけないと思いました。
内山 はい、そうおっしゃっておられました。
津曲 当時は誰も発想しないことでしたが、私は会社を維持・成長させるために焼き菓子に力を入れ、七洋さんはオーブンを売るために焼き菓子に力を入れて、同じ方向をひたすら一緒に進んできましたね。
七洋さんは私が意図する焼き菓子を忠実に焼き上げてくれるオーブンをずっとつくり続けてくれました。「スーパーバッケン」が下火をコントロールするという固定窯の究極のテーマさえクリアしたわけですから、私も専門店としてのおいしさをさらに深く深く〝深化〟させて行こうと思います。
内山 昨年の8月に長年お使いいただきました「バッケン」を「スーパーバッケン」に買い替えていただき、大変ありがとうございます。お使いいただいて、焼き上がりはいかがでしょうか。
三嶋 ジェノワーズもいいし、パイもクッキーも全部いいですね。どれも〝下火がきちんと入る〟ようになりました。
内山 ありがとうございます。今、ムッシュにお褒めいただきました〝下火がきちんと入る〟ということですが、これは今まで固定窯にとって構造的にとても難しいことでした。通常、どの固定窯も上火の高い温度の影響を受けて下火の温度が下がりません。
このため下火のセンサーは、下火が常に設定温度を超えた状態だと判断するために下火がオンになりません。つまり下火が入らないまま周辺温度で生地を焼いていることになります。ですから下火に力がありませんし焼き上がりも安定しないのです。
「スーパーバッケン」は〝下火リセットシステム〟で下火に空気を送ることで上火の影響を取り除き、常に正確な温度で下火が入るようにしました。
三嶋 なるほど、〝固定窯の下火を安定させる〟とは凄いことを実現しましたね。おかげさまで、この〝下火の安定〟によってダックワーズが私の理想通りに焼き上がりました。
ダックワーズはもともと下火で焼くのです。もちろん上火も必要ですが、下火が入っていないとベチャッとした感じになっておいしくありません。「スーパーバッケン」は下火がきちんと入ってくれて、今までよりも焼成時間が短くなりました。だいたい15~16分かかっていたのが、今は13~14分くらいで焼けるようになりました。
内山 短く窯から出ると、焼き上がりが変わるのでしょうか。
三嶋 早く焼き上がりますから、生地が戻った時のしとりがとてもいいのです。うちではダックワーズを焼いて2個ずつ袋に入れます。
焼いてから大体3日目から6日目くらいがおいしいのですが、「スーパーバッケン」で焼くようになってからは、3日目から10日目くらいまでおいしい期間が延びました。
上火も下火も適正な温度でピシッと包み込むように焼くと浮きがとても安定しています。表面はパリッと焼き上がり、中には水分が残り今までよりもフワッとしていてやわらかく、とても火抜けがいいと思いました。
内山 先日、「スーパーバッケン」で焼いたダックワーズを一口食べさせていただいた時に、そのおいしさにハッとさせられました。私は何度もこちら様のダックワーズをいただいておりますので、今までのものとの違いがすぐにわかりました。
三嶋これだけたくさん焼いていますから、焼き色が違っているものや、浮きが悪くてネチャッとするものが少しはあっても仕方ないと思っていました。
でも今は全部浮きが良くて綺麗に同じ焼き色に焼き上がります。「スーパーバッケン」は凄いですね、本当に〝スーパー〟です。
ダックワーズを販売して41年が過ぎました。七洋さんが密閉度を極め続け高い焼成力を追求し続けるのと一緒に、私どものダックワーズも品質を高めてきました。
そして、今度は下火のコントロールができる窯を手に入れて、フランス菓子16区のダックワーズも42年目にして、また大きく進化しました。本当にいい窯をつくられたと思います。
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「スーパーバッケン」で焼成時間が短縮
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安定した下火が火抜けのいい焼成を生み出す
内山 他のお菓子の変化はいかがでしょうか。
三嶋 マロンパイも良くなりました。今まではどちらかというと周辺の温度で焼いている乾燥焼きに近い状態だったのではないでしょうか。「スーパーバッケン」はやっぱり火が入りますね。層が一枚一枚浮いてパイが軽くなりました。食感もサクサクとさらに良くなりました。
ガレットブルトンヌも良くなりましたね。これも生地の中心まで下火が綺麗に入ることで、ザクザク、ホロホロと崩れるような食感は軽さを増し、濃厚なバター感も深みを増しました。 シフォンケーキなどにもやっぱりいいですね。凄くしとりが出てきちんと焼けています。この良さは、やっぱり使ってみないとわからないでしょう。
内山 ダックワーズなどの焼き菓子が早く安定して焼けるようになることは、経営面では具体的にどのようなメリットがございますでしょうか。
三嶋 それは、仕事の効率が一番大きいでしょう。一回ごとの焼成時間が短縮できるから仕事は早く終わりますし、短縮できた時間を使って増産することもできます。しかも焼成ロスがなくなるのも大きいですね。
私どもの営業時間は午前9時から午後8時まででしたが、今は午前10時から午後6時です。
これからの経営環境を考えて、スタッフの働く時間の適正化にも積極的に取り組みました。たとえ売り上げが下がっても、店の営業時間を3時間短くしました。
内山 ところで、売り上げは下がりましたでしょうか。
三嶋 結果的には以前よりも売り上げは伸びて利益も出ています。しかし、ただ営業時間を短くしたわけではありません。提供する菓子、アイテム数、製造のローテーションなどあらゆるものを見直しました。
そして、こうした見直しはお客様への接客や菓子の品質を維持するのではなく、むしろ上げるつもりで臨みます。
時代は大きく移り変わろうとしています。新たに導入した「スーパーバッケン」のポテンシャルをぐっと引き出して、時代の勢いを大いに先取りしたいですね。