「訃報に寄せて」
昨年6月、リリエンベルグの横溝春雄氏が77歳でご逝去されました。
横溝氏は日本の洋菓子界において独自の視点と揺るぎない信念をもって新たな道を切り拓き、多くの後進の目標となった方であります。 私自身も氏には数々のご指導とご厚情を賜り、その歩みから多大な学びをいただきました。
ここに謹んで哀悼の意を表し、思い出と功績を記してご冥福をお祈りいたします。
「リリエンベルグ誕生と革新」
横溝氏と初めてお会いしたのは、氏が独立してリリエンベルグを創業される以前、中村屋グロリエッテに在職されていた頃でした。
現在では、高級住宅街として知られる新百合ヶ丘も当時は人家が少なく、広大な原っぱに変電塔が立つのみの地でありました。 そのような場所に菓子店を構えるという決断自体、既に従来の枠を超えた挑戦であったといえます。 開業にあたり、リリエンベルグは従来の洋菓子店の常識を覆す存在となりました。生菓子中心の経営が主流であった時代に、同店のショーケースは8尺1本、 生ケーキはわずか12種類に絞られ、焼き菓子販売を主軸とされたのです。経営的観点から、粗利や労務負担、ロス率に配慮した先見性に富む戦略でした。
「焼き菓子への信念と演出」
私の度肝を抜いたのはバッケンの置く位置です。 生ケーキ中心に販売することを考えると汚れた窯はあまり見せたくない、その為一番奥にあることがセオリーでした。
ところがリリエンベルグでは店のドアを開けると正面の奥に8尺のショーケースが入って左側にバッケンが正面を向いており、職人が焼き菓子を焼いているところと生のショーケースと同時に見ることが出来ます。横溝氏は私に、左手に美しく飾られたショートケーキ、右手に小石のようなクッキー「ポルボローネ」を持ちながら問いかけられました。「内山さん、どちらを買いますか。」私は迷わずショートケーキを選びましたが、横溝氏は静かにこう語られました。
「お客様も皆そうです。しかしリリエンベルグが本当に良い店となるためには、このポルボローネが売れなければならないのです。」その言葉どおり、ガラス越しに職人が生地を成型し、バッケンで焼き上げ、香ばしい香りが店内を包み込む。その一連の情景と香りが焼き菓子に命を吹き込み、お客様の心に刻まれる仕組みが、同店には見事に設えられておりました。これは単なる店舗演出ではなく、横溝氏の揺るぎない信念の表れでありました。
「業界に刻まれた功績」
その後、リリエンベルグは多くの顧客に支持され、全国の洋菓子店の指標となりました。横溝氏の「焼き菓子を主役に据える」という経営理念は、従来の洋菓子店のあり方を根底から見直すきっかけとなり、数多くの後進のパティシエに影響を与えました。また、ウィーン菓子の巨匠として高い技術を誇りながらも、パフケーキやカステラといった親しみやすい菓子にも関心を示されました。氏は常に「子どもが安心して食べられるお菓子こそが喜びをもたらす」と語られ、厨房からの視点に留まらず、常にお客様の立場から繁盛の条件を見極められていました。この姿勢こそが、横溝氏を業界の先駆者とたらしめた要因でありましょう。
ご夫妻の歩みと「優しさの味」
ご生前、横溝氏は常に奥様と共に歩まれました。奥様のご逝去の後を追うように旅立たれたことは、ご夫妻の深い絆を物語っております。 お二人が創り上げられた菓子は「優しさの味」として、訪れる人々の心に深く刻まれています。
「今回のプレスのテーマはシュークリームです」
奇をてらうような新しい商品ではなく、専門店ならではの出来立て感、作りたて感の追求に尽きるのではないでしょうか。今回のプレスは誰もが知っているシュークリームにスポットを当てました。目の前でシュー皮を焼き、お客様の注文を聞いてからカスタードを詰める「まるで皮とカスタードが奏でるミルフィーユの様なさっくり感」 これを演出できるのは専門店ならではです。価格もリーズナブルにして集客商品として考えられては如何でしょうか。 本文を是非一読してください。本年も宜しくお願い致します。
皆様方のご健闘をお祈りいたします。
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創業以来35年間販売する“甲陽園の陽子さん”
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常識外れの生地を
「スーパーバッケン」が火抜け良く焼き上げる。
まさにツマガリワールド
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表も裏も同じ焼き色
内山 この度は「スーパーバッケン」をご導入いただき大変ありがとうございます。お使いいただいていかがでしょうか。
津曲 ロールも、スフレチーズも、フィナンシェもすべて最高ですね。「スーパーバッケン」は火力が強くて下火が安定しているので、生地の火抜けが良くて浮きも上がっています。それに加えて焼成時間が短くなっていますね。
内山 お褒めいただきありがとうございます。もう少し具体的にお教えいただけますでしょうか。
津曲 そうですね、「スーパーバッケン」が一番実力を発揮している菓子を紹介しましょう。私どもに「甲陽園の陽子さん」という創業から35年ずっと販売している一番人気の焼き菓子があります。ファンのお客様が多く、毎日1000個、多い時には1500個くらいつくることもあります。このお菓子がぐっと良くなりました。
しかし、このお菓子は単純なのですがとても難しいのです。
内山 難しいとおっしゃいますと。
津曲 このお菓子はただのブッセのようですが、小麦粉を入れませんからただのブッセではありません。しかもメレンゲに生クリームを混ぜるという常識外れのとても危険な生地なのです。メレンゲの生地に生クリームを混ぜたら生地が死にますからフランス菓子ではこのようなことはしませんし、この配合はどこにもありません。
ポイントは生地の合わせ方と、良い卵白を使うこと。この生地の硬さで大きさを均等に高く絞るっていうのも簡単そうに見えてなかなか難しいのですが、もうずっとやっていますから体が覚えています。これが技術ですね。
内山 ということは、焼成にもレベルが必要なのですね。
津曲 もちろんです。上火200℃、下火165℃で19分、気密性の高い「バッケン」だからこそ焼けるのですが、驚いたことに入れ替えた「スーパーバッケン」で焼くと16分から17分くらいで焼けるようになって1分半くらい焼成時間が短縮されたのです。中は蒸すが如くふんわりと、外側には香ばしい焼きの味付けをしてくれます。これこそ火抜けの良い生地のおいしさです。鼻から抜けるアーモンドの香りはエッセンスなし、素材が持っている香りのみ。いい焼成は最高の香りを出します。
やっぱり下火がいいですね。安定して火が入っています。この焼き上がりを見てください、綺麗でしょう。表も裏も同じ焼き色です。上火200℃と下火165℃で表裏が同じ焼き色に上がるのは温度のバランスがピタリと決まっているわけです。真ん中も端も全く焼きムラがありません。
ここにサンドするプラリネクリームは、ローストしたアーモンド、ヘーゼルナッツ、砂糖でつくるプラリネペーストにバターを合わせますが、生地の存在感にクリームが負けないようにバターには空気を入れずに風味を強くしています。濃厚なクリームが生地のおいしさを何倍も楽しませてくれます。
焼成時間が短縮できて品質も上がる。これを見ると固定窯にとって下火の安定がどれほど大切かを教えてくれますね。もう七洋さんの「スーパーバッケン」は群を抜いてきましたね。
内山 ありがとうございます。
津曲 それから「スーパーバッケン」は、フィナンシェなどを高温で焼いた後、〝下火リセット〟を押すと下火がすっと下がりますから、すぐにロールのシートが焼けます。下火の温度を下げるために冷えた鉄板を入れたりする必要がありませんし、もう、時代はそんな無駄な時間を待っていられませんよね。
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「スーパーバッケン」に替えて焼成時間が短縮
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「スーパーバッケン」の前で対談
内山 ところで、洋菓子専門店様は今から真剣に焼き菓子に取り組まなければ、本当にもう人を雇用できないのではないかと思うのですが。
津曲 焼き菓子が売れないと労働環境は良くなりません。社員の給料やボーナスも上げられるようにいつも考えています。何のために会社があるのかというのを考えた時に、社員の犠牲の上に菓子屋があってはいけません。
内山 ただ、焼き菓子をやれば何事も上手く行くわけではありません。専門店としての香りや味、そして食感を深く追求し続けなくては。そのために私どもは「スーパーバッケン」を開発しました。
津曲 その通りですね。スーパーやコンビニにも焼き菓子やケーキが溢れています。日本の有名パティシエが監修した菓子がTVで宣伝されたりしていますが、専門店の菓子がそれと同じレベルならもう必要ないわけです。
もうずいぶん前になってしまいますが、私は店を開く時に将来は焼き菓子の売り上げを最低でも90%、生ケーキを10%の会社にしないと食べてはいけないと思いました。
内山 はい、そうおっしゃっておられました。
津曲 当時は誰も発想しないことでしたが、私は会社を維持・成長させるために焼き菓子に力を入れ、七洋さんはオーブンを売るために焼き菓子に力を入れて、同じ方向をひたすら一緒に進んできましたね。
七洋さんは私が意図する焼き菓子を忠実に焼き上げてくれるオーブンをずっとつくり続けてくれました。「スーパーバッケン」が下火をコントロールするという固定窯の究極のテーマさえクリアしたわけですから、私も専門店としてのおいしさをさらに深く深く〝深化〟させて行こうと思います。
内山 昨年の8月に長年お使いいただきました「バッケン」を「スーパーバッケン」に買い替えていただき、大変ありがとうございます。お使いいただいて、焼き上がりはいかがでしょうか。
三嶋 ジェノワーズもいいし、パイもクッキーも全部いいですね。どれも〝下火がきちんと入る〟ようになりました。
内山 ありがとうございます。今、ムッシュにお褒めいただきました〝下火がきちんと入る〟ということですが、これは今まで固定窯にとって構造的にとても難しいことでした。通常、どの固定窯も上火の高い温度の影響を受けて下火の温度が下がりません。
このため下火のセンサーは、下火が常に設定温度を超えた状態だと判断するために下火がオンになりません。つまり下火が入らないまま周辺温度で生地を焼いていることになります。ですから下火に力がありませんし焼き上がりも安定しないのです。
「スーパーバッケン」は〝下火リセットシステム〟で下火に空気を送ることで上火の影響を取り除き、常に正確な温度で下火が入るようにしました。
三嶋 なるほど、〝固定窯の下火を安定させる〟とは凄いことを実現しましたね。おかげさまで、この〝下火の安定〟によってダックワーズが私の理想通りに焼き上がりました。
ダックワーズはもともと下火で焼くのです。もちろん上火も必要ですが、下火が入っていないとベチャッとした感じになっておいしくありません。「スーパーバッケン」は下火がきちんと入ってくれて、今までよりも焼成時間が短くなりました。だいたい15~16分かかっていたのが、今は13~14分くらいで焼けるようになりました。
内山 短く窯から出ると、焼き上がりが変わるのでしょうか。
三嶋 早く焼き上がりますから、生地が戻った時のしとりがとてもいいのです。うちではダックワーズを焼いて2個ずつ袋に入れます。
焼いてから大体3日目から6日目くらいがおいしいのですが、「スーパーバッケン」で焼くようになってからは、3日目から10日目くらいまでおいしい期間が延びました。
上火も下火も適正な温度でピシッと包み込むように焼くと浮きがとても安定しています。表面はパリッと焼き上がり、中には水分が残り今までよりもフワッとしていてやわらかく、とても火抜けがいいと思いました。
内山 先日、「スーパーバッケン」で焼いたダックワーズを一口食べさせていただいた時に、そのおいしさにハッとさせられました。私は何度もこちら様のダックワーズをいただいておりますので、今までのものとの違いがすぐにわかりました。
三嶋これだけたくさん焼いていますから、焼き色が違っているものや、浮きが悪くてネチャッとするものが少しはあっても仕方ないと思っていました。
でも今は全部浮きが良くて綺麗に同じ焼き色に焼き上がります。「スーパーバッケン」は凄いですね、本当に〝スーパー〟です。
ダックワーズを販売して41年が過ぎました。七洋さんが密閉度を極め続け高い焼成力を追求し続けるのと一緒に、私どものダックワーズも品質を高めてきました。
そして、今度は下火のコントロールができる窯を手に入れて、フランス菓子16区のダックワーズも42年目にして、また大きく進化しました。本当にいい窯をつくられたと思います。
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「スーパーバッケン」で焼成時間が短縮
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安定した下火が火抜けのいい焼成を生み出す
内山 他のお菓子の変化はいかがでしょうか。
三嶋 マロンパイも良くなりました。今まではどちらかというと周辺の温度で焼いている乾燥焼きに近い状態だったのではないでしょうか。「スーパーバッケン」はやっぱり火が入りますね。層が一枚一枚浮いてパイが軽くなりました。食感もサクサクとさらに良くなりました。
ガレットブルトンヌも良くなりましたね。これも生地の中心まで下火が綺麗に入ることで、ザクザク、ホロホロと崩れるような食感は軽さを増し、濃厚なバター感も深みを増しました。 シフォンケーキなどにもやっぱりいいですね。凄くしとりが出てきちんと焼けています。この良さは、やっぱり使ってみないとわからないでしょう。
内山 ダックワーズなどの焼き菓子が早く安定して焼けるようになることは、経営面では具体的にどのようなメリットがございますでしょうか。
三嶋 それは、仕事の効率が一番大きいでしょう。一回ごとの焼成時間が短縮できるから仕事は早く終わりますし、短縮できた時間を使って増産することもできます。しかも焼成ロスがなくなるのも大きいですね。
私どもの営業時間は午前9時から午後8時まででしたが、今は午前10時から午後6時です。
これからの経営環境を考えて、スタッフの働く時間の適正化にも積極的に取り組みました。たとえ売り上げが下がっても、店の営業時間を3時間短くしました。
内山 ところで、売り上げは下がりましたでしょうか。
三嶋 結果的には以前よりも売り上げは伸びて利益も出ています。しかし、ただ営業時間を短くしたわけではありません。提供する菓子、アイテム数、製造のローテーションなどあらゆるものを見直しました。
そして、こうした見直しはお客様への接客や菓子の品質を維持するのではなく、むしろ上げるつもりで臨みます。
時代は大きく移り変わろうとしています。新たに導入した「スーパーバッケン」のポテンシャルをぐっと引き出して、時代の勢いを大いに先取りしたいですね。